人工知能(AI)は本当に未来を劇的に変えるのだろうか。この話題に示唆を与えるいい本が出た。著者はデジタルゲームにおける人工知能開発の第一人者で、グラフィック・クリエーターと組んで、イラストを駆使しながら人工知能の「水先案内」を行う。これがとてもわかりやすい。

そもそも人工知能とは「問題特化型」の知能である。著者は「それぞれの人工知能は問題に張り付いています。数学的な問題は解けても、他には何もできません」(12ページ)と喝破する。近い将来、人工知能が人間の仕事を奪うのではないか、という予想は的外れなものなのだ。

また、人工知能がどのように自分で学習するのかも平易に解説する。「機械学習は(中略)すでに組み込んでおいた思考を調整し、あらかじめ決めておいた知識の型で知識を蓄積することで学習を行います」(55ページ)。すなわち、人工知能は蓄積された情報を使いこなすのは得意なので、インターネット上の膨大な「ビッグデータ」を、水を得た魚のごとく縦横無尽に活用する。

そして今やクラウドの時代だ。現実社会・インターネット空間・データベースの三者をリアルタイムにつなぐクラウドをもとに、人工知能は学習し互いに連携してゆく。

本書には情報処理の達人らしく「クロスレファレンス」が見事に駆使されている。巻末の索引は言うに及ばず、専門用語を説明したページが本文中にも設けられている。新しい分野を学ぶ際には、わからなくても取りあえず先へ進む「棚上げ法」を私はいつも推奨しているのだが、本書のクロスレファレンスが見事に助けてくれる。よって、読者は馴染みのない言葉があっても、安心して読み進めてほしい。そして読破してしまってから、解説を確認すれば、理解がさらに深まる仕掛けになっている。

最後に、人工知能の「フレーム問題」にも触れておこう。最大のポイントは、人工知能は与えられた問題しか解けないことだ。つまり、一定の枠(フレーム)の中でしか思考できず、「想定外」に対応できない。さらに、人工知能は自分で新しいフレームを設定することも不可能だ。したがって、「無限の自由度をもつ現実から、有限の問題を切り出す能力は人間固有のもの」(178ページ)であり、人の未来は揺るがない。

「知識は力なり」と言ったのは英国の哲学者フランシス・ベーコンだが、まさに人工知能に関する正しい知識を持つことで、不安な日々から解放されよう。ここには評者の専門である地震防災と同じ構造があり、「人工知能(地震)が怖い」と怯えることは全くない。優れた啓発書は人生に安心を与える。「人工知能との共存もまた楽し」と思える一冊として、文系読者にもお勧めしたい。

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