弘兼憲史の着眼点

▼「優秀な奴は安い」非学歴主義の底力

1949年生まれの安部さんは、僕と2つ違いの同年代です。僕たちの世代にとって、牛肉は高級品でした。牛丼を初めて食べたときは、世の中にこんなに美味いものがあるのかと思ったほどです。

それ以来、僕は吉野家党です。安部さんが言った、吉野家の客がいつもの味でないと満足しないのはよくわかります。

弘兼「あれ? スカイツリーは左右対称ではないんですね」 安部「ええ。18階の本社から見るとよくわかります」

成功した経営者の方に話を伺って思うのは、若い時期に自分の背中を押してくれる人物と出会っていることです。安部さんの場合はそれが吉野家の松田瑞穂社長でした。松田社長の口癖は「高い奴は安い、安い奴は高い」というものだったそうです。優秀な人がいるとすぐに昇給やボーナスに反映させました。報酬が高くてもよく仕事をするので、結果的には安いという考えです。そして「これは」と見込んだ人間には、会社がお金を払ってセミナーなどに参加させて勉強させるのです。

吉野家HDの河村泰貴現社長も安部さんと同じく、アルバイトからトップに駆け上がりました。優秀であれば学歴、経緯は一切関係ない──。これこそが、吉野家の強さなのかもしれません。

弘兼憲史(ひろかね・けんし)
1947年、山口県生まれ。早稲田大学法学部を卒業後、松下電器産業(現・パナソニック)勤務を経て、74年に『風薫る』で漫画家デビュー。85年『人間交差点』で第30回小学館漫画賞、91年『課長島耕作』で第15回講談社漫画賞、2003年『黄昏流星群』で日本漫画家協会賞大賞を受賞。07年紫綬褒章受章。
(田崎健太=構成 大槻純一=撮影(対談) 時事通信フォト=写真)
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