小倉昌男に宅配サービスを相談
【弘兼】01年には、牛丼チェーン店で値下げ競争がありました。あのときは牛丼の並盛りが280円にまで下がりました。もともと牛丼は高くない。そこまで下げたことで会社にダメージはなかったのですか?
【安部】“やすい”の期待に応えなければなりませんでした。ただ、東証一部に上場した直後で、株主に対する責任もあり利益も落とせない。二律背反の問題を抱えていました。
【弘兼】どう解決したんですか?
【安部】前向きに考えることにしました。我々は無借金経営で増収増益が続いていました。そうなると組織は硬直化して、セクショナリズム、官僚化が起こる。そこで無理難題を解決するために、革新運動をすすめることにしたのです。
【弘兼】具体的には?
【安部】あらゆるコストの見直しです。もちろん、全社で様々な改善を行っていました。ただ、改善の連続で完成度が高くなればなるほど、矛盾も重なるものです。そのとき私が言ったのは、改装ではなく、一回更地にして設計し直そうということでした。たとえば、配送。それまでは車で配達して、入荷作業は店でやっていました。だいたいそれが30分ぐらいかかるんです。少人数で店を運営しているときは、かなりの負担です。そこで店に必要な品目だけをラックに積んで、運転手がそのラックごと収納する形を考えました。
【弘兼】そうなれば店員の労力が減ります。ただ、そんなに簡単にいくのですか?
【安部】店の入り口の段差をなくさなくてはなりませんでした。
【弘兼】店のつくりを変えるのですね。
【安部】さらに、入客数の少ない時間の店員配置の見直しも検討しました。そのために実際の店舗の店員の歩行距離を計測して、なるべく作業の動線を少なくするために店内の配置も替えました。そうしたことで生産性が一気に高まったのです。
【弘兼】今後、日本の人口は減っていきますが、外食産業の未来についてはどうお考えですか?
【安部】外食産業の売り上げが落ちた1つの理由は、コンビニなどで買える惣菜や弁当などの「中食」が発達したことでしょう。そして外食産業は過当競争です。牛丼店でいうと、かつては吉野家しかなかったのに、現在は上場3社(※)で国内約4000店。店舗数はかなり増えました。
【弘兼】牛丼のファンだった団塊の世代も年を取って、食べる頻度も減っている。
【安部】それもチャンスだと考えています。25年前、私が社長になった頃、今後パーソナルユース、つまり宅配が増えるだろうと思い、ヤマト運輸の故・小倉昌男さん(当時、代表取締役相談役)のところに相談に行ったことがありました。いずれシルバー層が「マス」になれば、パーソナルユースと健康志向が強まると考えたのです。結果としてはそのときは実現しなかった。今はドローンなどの新しい技術も出てきているので、山間部に住む高齢者にも牛丼を届けることができるかもしれません。これからは大変かもしれませんが、同時に面白いことができる時代だと思っています。
※「吉野家」の吉野家ホールディングス、「松屋」の松屋フーズ、「すき家」「なか卯」のゼンショーホールディングス