小さな離島が避粉ツアーで町おこし

「たった1日でもいいから、なんとかこの地獄から逃れたい!」

一歩外に出ただけで、鼻水や涙が止まらない……そんな恐怖の花粉症シーズンを迎えて、上述したような想いに駆られている人も少なくないだろう。だが、そんな「花粉から逃れられる場所」が実際にあるとしたら?

近年、花粉症に悩む人々をターゲットにした「避粉地」旅行プランが、全国各地で実施されるようになってきている。たとえば、長崎県平戸市にある離島・的山大島(あづちおおしま)では、2007年から「スギ花粉避粉地体験ツアー」が開催されている。

2017年の実施期間は3月10日~3月12日までの2泊3日(すでに応募締め切り済み)。今年は定員20人での募集だったが、毎年、定員をはるかに上回る応募が殺到しているとか。ツアーの内容としては、同島の名物である棚田や風力発電所、重要伝統的建造物群保存地区に指定されている神浦地区の町並み見学といった島内観光や、花粉症講座などを予定。費用は現地集合・現地解散でおよそ2万円前後だ。

長崎県平戸市にある離島・的山大島と神浦地区の町並み。

年間3日だけしか催行されないツアーではあるが、なぜこうしたツアーを開催するに至ったのか。主催するNPO法人文化財匠塾平戸支部の米村伍則氏に聞いてみた。

「もともと的山大島は、島内にスギ林が少なく、まわりが海であることから、他所からのスギ花粉飛来の影響がほとんどない土地なんです。そのため『大島に泊まったら花粉症の薬を飲まなくても大丈夫だった』『大島に泊まるたびに鼻の調子がよくなる』などと島外の方から言われることが多かったんですよ。そこでひらめいたのが、このツアーでした」(米村氏)

観光客を中心とした島外からの来訪者から寄せられる「大島滞在中には花粉症の症状が緩和される」との声を参考に、実際どの程度の花粉が飛んでいるのか、専門機関の協力を得ながら調査・分析を実施。その結果、福岡県や長崎県北部と比べて、的山大島の花粉量は10分の1程度であることが判明した。

「平成21年度に、長崎大学病院が実施した全住民を対象とした調査によると、花粉症有病率は全国で26.5%といわれるなか、的山大島においては2.65%という結果が出ています。これは、スギがないエリアで知られる沖縄の6%よりも少ない数字なんです」(米村氏)

もともとは町おこし的な観点と、「的山大島を知ってもらいたい」という思いからはじめたという同ツアーだが、開催は今年で9回目。なかにはツアーを通じて「この島で暮らしたい」と移住してくる人も現れたという。

「人口1438人の小さな島ですが、過疎化や少子高齢化といったことばかり考えるより、地域の新たな可能性と付加価値を見出して、頑張りたいです。現在は、宿舎のバリアフリー化が不十分であったり、島内交通が不便だったりなどの課題もありますが、家庭的な宿や地元料理のもてなしでカバーしていければ……と思っています。また、ツアーに関係なく、個人で島にいらっしゃる方のご案内なども行っていますので、ぜひお越しください」(米村氏)