「花粉症は公害」高度経済成長の徒花

近年、日本人のおよそ3割が罹患しているという花粉症。もはや“国民病”と評しても過言ではない状況になっており、医療費の支出増加、労働生産性の低下など、国家の財政や経済活動においても大きなマイナス要因になっている。花粉症シーズンは、小売りや外食産業、レジャー産業などの売り上げも落ち込んでしまうのだ。

花粉症はもはや国民病となっている。

もちろん、国もそうした現状を問題視しており、スギの伐採を推進したり、少花粉や無花粉スギ苗木(花粉症対策苗木)の開発・普及を加速させたりといった取り組みを実施している。しかし、花粉の飛散量を劇的に減らすことは難しく、花粉症罹患者は増える一方だ。

そもそも、なぜ日本において、ここまで花粉症がはびこってしまったのか。端的には、戦後復興から高度経済成長の過程における林業政策が、大きな原因と言われている。古来、日本人はスギを建築資材として用いてきた。伝統的に慣れ親しんだ資材であり、成長が早く、加工も容易なスギは、戦後日本の復興でも広く活用され、高まるばかりの木材需要に応えてきたわけだ。国も積極的にスギによる造林政策を展開。全国各地にスギの人工林が築かれ、林業は活況を呈していく。

そうした状況に変化が生じたのは、1960年代。貿易自由化により海外から安価な木材が大量に輸入され、国産スギが市場競争で負けはじめたのである。林業従事者が減っていくことで、多くのスギ林が野放しになり、伐採や植樹などもされることなく放置されるようになってしまった。スギは樹齢30年を過ぎると繁殖力を高めて、さらに多くの花粉を生成するようになるという。その結果、出現したのはシーズンになると大量の花粉を撒き散らす、広大なスギ林──という具合だ。

元来、日本の森林はケヤキやブナ、サクラといった広葉樹を主体に構成されていた。しかし、戦後復興から高度経済成長期にかけての植林施策により、森林の4割がスギやヒノキといった針葉樹で占められるようになってしまった。人工林ではほぼすべてが針葉樹という状況に。つまり花粉症は、日本の森林の植生を人為的に変えてしまった結果と見ることもできる。「花粉症は公害」と評する専門家がいるのは、そのためである。