日本人でもネイティブのように話せるが……

【三宅】そこで、日本人の発音についてうかがいます。私は非常に重要であると思っているので、率直にお聞きしますが、日本人がネイティブスピーカーのように発音することは可能なのでしょうか。

【松坂】理論的には可能です。どんな発音でも、人間が自分の口を使って音を出しているわけですから。調音器官、つまり発音のための道具が備わっていれば可能です。もっとも、特定の人の発音を真似しようとして、100%目標に達するためには膨大なエネルギーと時間がかかるでしょう。それだけの努力を発音だけに費やすことが賢明かどうかは、また別の問題です。

【三宅】それにしても、日本人はどうしても英語に対して苦手意識があるようです。なぜうまくならないのですかしょうか。

【松坂】いくつか理由はあるでしょうね。まず、日本語と英語の違いという問題があります。英語にある文法概念、例えば単数とか複数は日本の学習者にはなじみにくい。また、音声の要素、たとえば「R」や「L」などの要素をたくさん英語と共有している言語もあれば、そうでない言語もあります。日本語は後者ですから、音の使い分けがなかなかできません。

別の理由として、練習量の問題があります。スポーツにしてもそうですが、稽古しないものは、うまくなれません。日本の学習者は、英語の授業を受ける時間は少なくないかもしれませんが、その時間内に、どれだけ英語を実際に練習するかと考えると、あまり多いとは言えないと思います。

さらに評価の問題があります。日本の英語教育では、正しいか正しくないかという点が極端に重要視されていて、能率が良いかはあまり評価の対象にはなりません。外国の人と話していると、正しいけれども能率が悪いという英語は、ハンデキャップになる可能性があるとわかります。

『対談! 日本の英語教育が変わる日』三宅義和著 プレジデント社

【三宅】グローバル化の加速とともに、英語が必要不可欠になっていると思います。そうしたなかで「通じる英語」という考え方が生まれてきました。母語の影響を強く受けたアクセントやイントネーションの様々な英語、つまり「Englishes (英語たち)」でやりとりされています。これについての先生の意見を聞かせてください。

【松坂】いわゆる「Englishes (英語たち)」ですね。これを肯定的に考えて、日本人は日本的な発音でいいのだと考える人もいます。しかし、英語について「何でもあり」という極端な考え方をすることには賛成できません。たしかに、「英語はアイデンティティの表明である」と言って、日本語なまりでもOKという考え方もあり得るでしょうが、アイデンティティが表明できてもコミュニケーションに失敗したら、英語を使う意味がありません。

もちろん、ネイティブスピーカーと同じ発音を究極の目的とするのも極端すぎると思います。ネイティブスピーカーの英語には、3つの問題があります。1つは、スピード。あの速さのためによく聞き取れないという外国人は少なくないはずです。2つ目には、音のくずれ。例えば「I am going to」が「I'm gonna」になる。さらに進むと「アイマナ」という発音になります。これでは大半の人が理解できません。3つ目の問題は、極端な地域性です。ネイティブスピーカーの発音にはさまざまなものがあり、そのエリア以外ではわかりにくいものもあります。こういう問題まで含めてそのままネイティブを真似することは感心しません。私は、基本的に伝統的な規範とされてきたネイティブスピーカーの発音をベースにしながらも、世界の多くの人々が理解できるクリアな発音が理想だと考えます。

(岡村繁雄=構成 澁谷高晴=撮影)
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