アメリカ市場に本格進出するソフトバンクの強力な武器は孫社長の英語力。ちょっと聞くと単なる「日本人の英語」だが、なぜアメリカ人の心に響くのか?
本筋とは無関係のようで大切なこと
孫正義はいま月の半分ほどをアメリカで暮らし、アメリカ市場の開拓に取り組んでいるという。通信業界関係者や、一般のビジネスマン向けに英語でスピーチする機会も少なくない。あらゆる業種で国内から海外市場へ成長の軸足を移す動きが続いているが、社長自ら海外に駐在し、英語でトップセールスを繰り返す例はさすがに珍しい。しかも、孫の場合は「英語のプレゼン」が着々と成果を生んでいる。
孫の英語はどこが凄いのか。プレジデント編集部はアメリカにおける孫の最新英語スピーチを分析し、その秘密に迫った(詳細は文末参照)。指南役は、スピーチコンサルタントとして経営者や第一線ビジネスマンに実践的な話し方を教える西任暁子と、NHK国際放送のリポーターとして活躍するアメリカ生まれの英語ナレーター、ジョン・ドーブだ。
第1のポイントは、いかに聴衆の興味を惹きつけるか。西任は、スピーチのなかで孫が語るパーソナル・ストーリーに着目する。
「孫さんはスピーチのなかで、自分自身の生い立ちについて触れていますね。このような個人的なストーリーを英語ではAnecdote(アネクドート)といいます。一見、本筋とは関係ないように見えますが、実は聴衆の共感を得るうえでとても大切です」
なぜなら「聞き手は、基本的には自分に関係のある話しか進んで聞こうとしません。『彼のストーリーはマイ・ストーリー』と感じてもらえるアネクドートで聴衆の興味を引き寄せ、関係性を構築したうえでビジネスの話をする。そうすれば、聴衆はビジネスの話にも好意的に耳を傾けてくれるようになるのです」。
しかも孫のアネクドートは必ずしも輝かしいものではない。韓国系の貧しい家庭に生まれ、苦労をしながらアメリカへ留学したことを述べている。それがかなりの効果を挙げているのではないか、と西任は分析する。
「ほとんどのアメリカ人は『純粋なアメリカ人』ではありません。多くの人は移民であるか移民の子孫です。だから、韓国からの『移民』であるという孫さんは、それだけでアメリカ人の共感を得ることができるのです」
ただ、孫のアネクドートはだいたいスピーチの終盤に登場する。アネクドートの役割は聴衆の興味を惹きつけること。だとしたら「本当はスピーチの冒頭部分で話すほうが効果的」(西任)なのである。