ただし、聴衆の心に強い印象を残すには、「tone(トーン)が決定的に大事です」とドーブは厳しい顔をする。ここからが第4のポイントだ。

ドーブが言うトーンとは、声の抑揚や音域、沈黙のタイミング、間の使い方のこと。その意味でドーブが「素晴らしい」と称賛するのは、2020年オリンピック招致の際の日本チームのスピーチだ。日本人の多くは抑揚が大きすぎると感じたはずだが、グローバルの場で相手にメッセージを届けるには、あのレベルが必要だとドーブは言い切る。

「多少発音が悪くても、パッションが伝われば中身は聴衆にきちんと届くのです。オリンピック招致のプレゼンでもおわかりのように、スピーチでは発音以上にトーンが大事です。ところが孫さんのトーンは、まるで大学教授のように一本調子。英語の発音はきれいで、話すスピードも遅すぎず速すぎず、耳で聞いたことを脳に処理していくのにちょうどよい速さ。でも、あのように一本調子では、長く聞いているうちに飽きてしまうかもしれません」

ソフトバンク=写真

私のような日本人が聞くと、孫のスピーチにはほどよい抑揚もあり、聞き心地がよいと思えるのだが――。

「でもアメリカ人はそう感じません。スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツのスピーチからは情熱が伝わってくるでしょう? そこに豊かなトーンがあるからです。聴衆はトーンに引き寄せられるのです。大学教授の一本調子のトーンでは、それができません」

ドーブが指摘する孫スピーチのもう一つの欠点は、「フレーズの短さ」。

「英語では『choppy』といいますが、孫さんのスピーチは、ぶつぶつと途切れてしまっています。英語に比べて日本語は抑揚もなく、音域も狭いので、日本語の呼吸法は英語に比べて浅い。浅いまま英語を話そうとすると、音域が広がらず、呼吸も続かない。だから文章を短く切ってしまうことになり、結果として、聴衆には聞き取りづらくなるのです。孫さんにアドバイスするとしたら、意識してフレーズの長いパートをいくつかつくり、大波にしたり小波にしたりして変化をつけるといいと思います。リズムがあると人の心が一緒に動いて、スピーチについてきてくれます。音楽と同じなのです」