個人投資家のお金には「色」がある
――同じ事業資金でも用途が大きく変わって来るものなんですね。
【吉田】あと、さらにお金には金銭的価値以外の要素も付いて来ると私は思っています。借りたお金というのは、融資担当者からすると、この事業をうまくいくようにしないといけないと思ってる点で、同じ船に乗っているわけですが、銀行や担当者は事業家ではないので、どこまでいっても同床異夢の部分があるかと思います。
一方、出資のお金は、さらに細かく分けると、個人投資家のお金、ベンチャーキャピタル(VC)のお金、事業会社のお金と3つある。個人投資家のお金は銀行などとは明確に違っていて、ただのお金というよりは、先輩方の知恵とかコネクションにひも付いているお金なので、お金プラスアルファの価値があるわけですね。だから、不透明な市場で、全く新しいビジネスモデルでやるという場合には、一緒に事業を考えてくれるような個人投資家からの出資を選んだほうがいいと思うんです。個人投資家は、事業の先輩方、起業して成功したような方々が多いわけですから。
ベンチャーキャピタルというのは、金融のひとつの仕組みで、だいたい10年満期で人様から預かったお金を、10年以内にリターンを出すというものですよね。個人投資家は、いいと思えば「ずっと株を持っておくよ」と言ってくれますが、ベンチャーキャピタルは基本的には10年以内に必ずイグジット(株式売却)しないといけない。そういう意味においては、出資のお金でも、個人投資家のお金とベンチャーキャピタルのお金とでは質が違います。だから出資を選んだとしても、まだ最初、ビジネスモデルが見えていないなら、個人投資家のお金がベストかなと思います。
――同じ“出資のお金”でも、個人投資家のお金とベンチャーキャピタルのお金とでは明確な違いがあるわけですね。
【吉田】ただ、個人投資家のお金って、その人の色が会社に付加されることでもあるから、怪しい商売でお金を儲けた人からお金を受けると、その怪しい雰囲気も引き継いでしまう。ですから、できれば「元上場企業社長」みたいなある程度社会的に透明性がある個人投資家とか、成果が明確な人を入れた方がいいです。一方でベンチャーキャピタルは、個人投資家よりも大きな額、例えば1億~10億単位のお金を投資することができることが魅力になります。だから、基本的な流れとしては、個人投資家から出資を受けてビジネスモデルをゼロから創り、最小単位の事業が廻るようになってきて「小さな単位では成功しているので、お金を大きく投資すれば、より早く、より大きくすることができるんじゃないか?」というタイミングで入れるようなイメージになるかと思います。0→1が個人投資家、1→100がベンチャーキャピタル(VC)と言えるかもしれません。(※小規模投資で事業を初期から創る「シードアクセラレーター」というVCもいますので例外はあります。)
一方で事業会社が出資する場合、ベンチャーキャピタルと違って資金回収期限はないです。ただ、自社の経営課題を解決するために出資をしているケースがあるので、目的があることが多いんですよね。今、大手携帯キャリアが積極的に投資していますけど、あれは通信インフラに続く、次世代の事業の軸をあらゆる方面から探していくみたいなことでやっているわけですよね。個人投資家とベンチャーキャピタルは、ある意味、金銭的なリターンが最終的にあればいい感じですけれど、事業会社は、金銭的なリターン以外の事業シナジーとかを目的としていたりするので、その意図が合致してないと後々揉めることにもなりかねない。
その意味においては、起業家側の価値が明確に形成されてきているステージ、ベンチャーキャピタルよりもさらに後の段階で事業会社が投資するほうが一般的かもしれません。出資の順番としては、第一段階が個人投資家、第二段階がベンチャーキャピタル、第三段階は事業会社が一つのモデルケースと言えるでしょう。もちろん戦略的に始めから事業モデルが固まっていて最初から事業会社出資で起業するようなケースもあるとは思いますのであくまで一つのモデルケースとして捉えて、そこから自分なりのやり方で考えていく必要はあると思います。
――クラウドワークスのケースはどうだったのでしょうか。
【吉田】うちのケースでいくと、エンジェルラウンドでは、個人投資家は小澤隆生さんやメルカリの山田進太郎さんなどに投資をしていただきました。この方たちは起業経験者なので、起業家のマインドがわかるから苦しいときにこそ、温かく応援してくれるんですね。その後ベンチャーキャピタルで、サイバーエージェントベンチャーズ、続いて、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ。あとデジタルガレージですね。「シリーズB(IPOに向かう資金調達期)」と呼ばれるところでは、サイバーエージェント本体や、上場寸前にはAOKIホールディングスなどの事業会社に出資してもらいました。
※ベンチャーにおける一般的な投資は、1:自己資金、2:エンジェル(個人投資家)ラウンド、3:シード(個人投資家・VCによる小規模投資)ラウンド、4.シリーズA(主にVCによる1億以上の1回目の大型投資)、5.シリーズB(主にVCによる5億~10億規模の2回目の大型投資)という流れで出資を受け、株式上場(IPO)や企業売却をしていく、という流れになっている。