抽象と具象を往復するトレーニングを

そして、4つ目が「心構えとやり切る意志の不足」です。模倣を成功させるには、オープンな気風を育てること。そして、自分たちが他社よりも優位であるという固定観念を脇に置くこと。さらに、柔軟な姿勢、偏見のない心、変わろうとする意志、そして好奇心が求められます。似鳥氏は、「良いと思ったものがあれば全て丸呑みして徹底的にマネをして、どうしても消化できなかったものだけ吐き出せばいい。出して足りなくなった分だけ、日本のものを入れてみればいい」(同)と述べています。

「意志力」という言葉があります。物質には、液体から固体へと形状変化する凝固点(閾値)があります。同じように意志力にも、「単なる願望」から「固い意志」へと変化する閾値がある、という考え方です。閾値を超える前は流動的なモチベーションの状態であり、疑念や不安を解消するために常に自問自答し、障害にぶつかると萎えてしまう。しかし、閾値を超えると、モチベーションはコミットメントに変わり、揺るぎない状態になり、目標に向かって一心不乱に突き進み、困難も乗り越えられるようになるといわれます。

模倣に必要な4つの能力

模倣に必要な能力は探索力・観察力・実行力ですが、それを支えるのは、心構えと意志力です。これらの能力を身につけることで、イノベーションにつながるような模倣が実現できると考えられます。

最後に、模倣能力を高めるためのトレーニング法を紹介しましょう。それは、お手本とする異国や異業種のビジネスを一度抽象化して、型や原理を理解し、自社のビジネスに落とし込んでみること(具象化)です。先述の通り、お手本をそのまま真似ようとすると、そのビジネスの核となる部分を見逃したまま、上っ面だけのもの真似で終わってしまいます。このような、抽象と具象の往復運動を繰り返すトレーニングを積むことによって、イノベーションにつながるような模倣能力を鍛えることができます。

(構成=増田忠英 写真=柳井一隆)
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