面白いことをどこまでやり続けられるか

2016年9月のパリ・モーターショーで初公開されたコンセプト車両「GLM G4」。

当時、小間は小型EVに将来性があると見込み、韓国のEVベンチャーを視察したが、その企業が経営破綻。小型EVでは試乗しても乗る喜びがないし、ベンチャーでは無理かと半分あきらめかけた。そんな中で、アメリカに旅行し、テスラモーターズに立ち寄ると、同社のロードスターに試乗した。

「それがめちゃくちゃ楽しかったんです。ベンチャーとしてこれを作り上げたのはすごいと感動しました」

こうして、小型EVではなくEVスポーツカーでいこうと決断し、松重教授の了解も得た。

2010年4月、大学院生2年の時に、松重教授を特別顧問(現社外監査役)にグリーンロードモータース(現GLM)を設立。と言っても当初はプロジェクトメンバーや小間の友達がゆるいつながりで参加し、サークル的なノリで始めた。しかし、小間はコマエンタープライズを創業メンバーに譲り、自らは退路を断って、EVに人生をかけた。

予算もなければ自動車業界について何も知らない小間は、大手自動車メーカーにいきなり「一緒にEVスポーツカーを作りましょう」と声を掛けたり、大手電機メーカーに「電池を提供してほしい」と頼んだりして、あきれられた。当然、門前払いだ。

だが、そのときにEVスポーツカーを作るためのエンジニア募集で、元トミタ夢工場に勤めていた男がやって来た。彼に聞いてトミーカイラZZのことを知り、さっそく冨田を訪ねた。すると、ちょうどブランド販売権が冨田に戻ったばかりだった。トミーカイラZZをEVとして復活させようという小間の提案に冨田も乗り、冨田が持っていた車を使ってEVにコンバージョンした。ところが、テスラ・ロードスターの加速性能を期待していた小間は愕然とする。「チョロQ並」の性能だったのだ。

「甘く見すぎていました。そこで、全て一からやり直すことにしました。後は目標を設定しながら1歩1歩着実に進んできました。それがかえってよかったのかもしれません」

人材集め、協力部品メーカーの開拓、型式認証の取得など壁はいくつもあり、中でも資金調達に苦労した。自動車開発はカネ食い虫だ。いくらあっても足りない。そんな中で、現れたのがエンジェル(個人投資家)たちだ。小間の挑戦に共感した元ソニー会長の出井伸之や、元グリコ栄養食品会長の江崎正道、元シティグループ証券副社長の那珂通雅、さらにはX JAPANのYOSHIKIなどが出資してくれた。

「日本にはエンジェルがいないと言われますが、そんなことはありません。みなさん、資金だけでなくて、業界・財界で力のある方々ですし、経営を支援してもらっています」

彼らの影響もあったのか、海外のファンドや事業会社が出資に応じてくれた。サウジアラビアや台湾の国営ファンドも来た。

資金を得て量産体制が構築できたGLMは攻勢に出る。2016年9月末に開幕したパリモーターショーで日本初の次世代型EVスーパーカーのコンセプト車を発表。「G4」はクーペスタイルの4ドアセダンで、航続距離がトミーカイラZZの120kmを大きくしのぐ400kmで、時速100kmまで3.7秒、最高速度250km/hという“とがった”性能だ。量産開始時期は2019年を目指す。価格は未定だが、3000万円クラスの超高級車になりそうだ。

小間に会社のビジョンを問うと、こう答えた。

「成長云々より、まず面白いことをどこまでやり続けられるかですね。面白いことをきちんとやるためには成長も必要です。僕は学生時代から起業しようと思っていたわけではなく、何か面白いことを続けてきただけなんです。面白ければ周りに人が集まって来て、さらに面白くなる。みんなが助けてくれて僕もGLMもあるのです」

祖父は「お前には徳が足りない。臭いものにはハエがたかるだけだぞ」と小間を叱咤し続けたという。徳を積むこと、恩をきちんと返すこと。小間はその教えを守りながら前に進み続ける。

(文中敬称略)

GLM株式会社
●代表者:小間裕康
●創業:2010年
●業種:電気自動車の製造販売
●従業員:22名
●年商:非公開
●本社:京都府京都市
●ホームページ:http://glm.jp/
(GLM=写真提供)
【関連記事】
「超小型、スローで人に優しい」電気自動車「rimOnO」を開発した狙い
大ヒット、ホンダS660を生み出した「高卒21歳の企画書」
世界2冠同時受賞! なぜマツダ「ロードスター」は世界で愛されるのか
「レクサスを変えてほしい」豊田章男社長が思い描くクルマづくり
なぜ電気自動車が中国の農家でつくられるのか