年が上がるにつれて周囲から期待される立ち居振る舞いは変わっていく。サラリーマン経験がある識者に、年代別の「理想の振る舞い方」を聞いた。
「50代の振る舞い方」
●教えてくれる人:作家 江上 剛さん
大企業のビジネスパーソンであれば、「新入社員の頃から熾烈な出世競争にさらされてきた」という人が多いでしょう。大企業には非情な掟があって、40代後半から選別が始まり、出世レースから脱落した人は、50代になると「出向」という形で企業を去ります。私は49歳で、長年勤めたメガバンクを退職したのですが、そのメガバンクも同様でした。反対に50代でラインに残れた人は、いわゆる「勝ち組」といってもいい。大半は部長クラスの役職に就き、なかには執行役員以上に昇進した人もいるでしょう。
執行役員といえば、いまやビジネスパーソンが目指す憧れのポストになっているようです。しかし、最近はやりの、この執行役員という制度が曲者で、日本企業をダメにしている元凶の一つだと、私はにらんでいます。
執行役員は、世間的には役員の一種だと見なされていますが、会社法で地位を認められた取締役とは、画然とした違いがあります。たとえば、取締役は株主総会で選任されますが、執行役員は取締役会が選びます。つまり、取締役である社長などのお偉方のご機嫌を損ねれば、たちまちお払い箱になってしまうわけです。
頑張ってようやく頂上にたどり着いたと思っても、役員クラスのなかでは最下層で、新入社員に逆戻りしたようなもの。しかも、役員とは名ばかりで、執行役員は経営権もない不安定な身分なのです。
そこで取締役に引き上げてもらうためには、再び馬車馬のように働いて、忠勤に励むしかありません。保身のため、お偉方に気に入られようと、媚びへつらったり、イエスマンに成り下がったりする執行役員が後を絶たないのも、むべなるかな。揚げ句の果てには、功を焦って、不正に手を染める不届き者まで出てくる始末です。
執行役員制度は、幹部社員を意のままにこき使えるので、社長にとっては都合がいいかもしれませんが、企業のガバナンスにとってはマイナスです。執行役員と部下の心が離反し、組織の士気が下がってしまったというケースも、往々にして見受けられます。
「いままで部下と苦楽をともにし、部下に頼りにされていた部長が、執行役員になった途端、手のひらを返したように上役ばかりを見て、部下に無理難題を押しつけるようになった」
そんな話を、嫌というほど耳にします。部下は「上司に裏切られた」とショックを受け、ついてこなくなる。それでは、何のための執行役員なのかわかりません。