成功とは、「富」「名誉」、あるいは……?
一生を通して、私たちを健康で幸福にしてくれるのはなんだろう? そう問われて、思い浮かぶ答えはなんだろうか。ハーバード大学の心理学者ロバート・ウォールディンガー教授らによる成人発達研究によると、8割の人は「富を蓄えること」と答え、そのうち5割の目標はさらに「有名になること」としたという。
1930年代に始まったこの研究では、75年間724人の男性を追跡記録していった。史上最長期間をかけて成人の生活を追った調査で、教授はその4代目の研究主任だ。この調査では、ふたつの環境下から研究の対象者を選んでいる。ひとつ目のくくりはハーバード大学の2年生で、ふたつ目のグループはボストンの極貧環境で水道すらままならない環境で育った少年達だった。彼らを長期にわたって定期的に訪問してはインタビューを行ない、医療記録までを調査対象としていった。
被験者の人生を追いかけていくと、工場労働者もいれば、弁護士になったもの、レンガ職人や医師、アルコール中毒者や統合失調症患者もいれば、ひとりはアメリカの大統領になったものもいたという。
こうして追跡した何万ページもの情報を見ると、浮き上がってくることがあった。それは人を健康で幸福にするものは、富でも名声でも、いい仕事を得て働くことでもなく……、“よい人間関係を築くこと”に尽きるというのだ。そして、人間関係に関して大きな教訓がみられたという。
ひとつは、家族でも友達でもコミュニティでも、周りとつながりが上手な人は健康で長生きをするというもの。逆に孤独は命取りで、孤立化を受け入れている人は、あまり幸せを感じず、脳機能の減退も早期に始まるという結果だった。
たとえば結婚をして伴侶と一緒にいても、ケンカが多ければストレスはたまるし、健康には悪影響となる。さらに、人といても孤独を感じることになるだろう。愛情があるいい人間関係を築くことが、人を守ってくれるというわけだ。
では、先ほどの被験者たちが80代になったとき、誰が幸せな80代になったのだろうか……。