「医者は世間の高すぎる期待に応えるために無理をし、場合によっては事実を誤魔化しながら治療行為に当たっている。今の日本の医療は、医療者側のそうした欺瞞と、『100%の安心・安全』というありえない物語を求める世間とがつくりあげた、共同幻想のうえに成り立っている」
こう指摘するのは医師で作家の久坂部羊さんです。患者は医者に対して「必ず病名を見つけてもらえるし、病名がわかったら確実に治してもらえる」と過大な期待を抱きがち。すると医者の側も「そこまでは無理です」とは言えずに、場合によっては手探りの状態で治療に挑む。その結果、「話が違う!」とクレームが発生し、医療不信が拡大する。
この構造は誰にとっても得にならない、不幸な仕組みです。進歩したといっても医療には限界があり、そのことをまずは医療者側が世間に分かりやすく伝える努力をしなければなりません。そして、患者側も医者に100%の期待をかけるのではなく、その期待値を75%くらいに引き下げることで「等身大の医療を受けられる」と久坂部さんは提唱します。
今回、プレジデント編集部では多くの専門家のご協力をいただきつつ、「等身大の医療」の実現を目指し、現代医療の常識をわかりやすく伝える大特集を組みました。12月12日発売号「患者だけが知らない 医者の診断のウラ側」特集です。
久坂部さんの登場する「医師が患者の期待に75%しか答えられないわけ」のほか、「医師500人のホンネ調査 小さな兆候別『見逃すとヤバイ病気』トップ20」「お医者さんの決まり文句、ウラの意味を教えます」「もう迷わない!『最新・がん治療』ベストセレクション」など、すぐに役立つ記事も満載です。医療不信を払拭するための決定版になったと自負しています。
さて、私自身は、いくつかの記事を担当するなかで、首都圏の研修医4人の本音を聞いた「研修医座談会・夜の病院、休日診療に不安はないか?」が特に強く印象に残りました。
たまたま千葉大医学部生と研修医が女性に対する暴行事件で逮捕されるなど、必ずしもよい印象を持たれていないのが現代の研修医です。しかし、匿名で話を聞かせてくれた彼らは、一人残らず気持ちがまっすぐで、勉強熱心で、おそらくは患者に対しても親切な心根の優しい若者たちでした。
医療に限界はあるかもしれないけれど、善良で優秀な医師は続々と巣立っている。だから、何も心配することはないのではないか――。そのことを、強く実感した取材でした。