遠距離「痛勤」と労働生産性低さとの関係
ちなみに、各市区町村の遠距離通勤率は、子育て年代の転入超過率とマイナスの相関関係にあります。図3は、東京都内49市区のデータによる相関図です。
2015年の転入超過率でみると、25~34歳の子育て年代人口が増えているのは、ほとんどが都心の区です(左上)。私が住んでいる多摩市は値がマイナスで、当該人口が出て行ってしまっています。公園の緑地面積が首都圏1位で、子育てをするにはよい環境だと思うのですがねえ。
やはり、「遠距離通勤はゴメンだ」という思いが強いのでしょうか。それで子育て年代人口が都心に流れ、保育所の不足による待機児童問題が深刻化する事態にもなっています。
国際的に見て日本人の労働生産性は低いのですが、遠距離通勤が影響していることは否めません。長時間の移動というだけでなく、ぎゅうぎゅうの満員電車に押し込められる。通勤時間ならぬ「痛勤」時間です。満員電車のストレスは「戦場以上」という研究結果もあります。
今はインターネットで各種のやり取りができますので、在宅の勤務やオフィスの郊外移転も増えてはくるでしょう。報奨金や税の軽減などの形で、それを促すことはできないものか。仕事のパフォーマンスが向上するのであれば、そのための投資も無駄ではありますまい。
「痛勤」地獄の解消も不可欠。既に言われて久しいですが、オフピーク出勤の運賃を割安にする措置が講じられてもよいでしょう。企業の側も、勤務時間にバラエティを持たせるべし。役所ならいざ知らず、「9:00~17:00」という慣習に拘る必要はないのではないか。
これから先、少ない労働力で社会をうまく回していくことが求められるようになります。長時間の「痛勤」地獄で、希少な労働力のパフォーマンスを落としてしまうのは、何とも馬鹿げたことです。
(図版=舞田敏彦)