監査で必ず現場に赴く経理担当者も
また、あるメーカーの経理担当者は、地方に単身赴任をしていた支店長が気になっていた。月に何回か飲食の手書き領収書が提出される。ほとんどが「顧客との懇談」だ。それぞれの書類には特におかしな点はない。過疎地に支店があるので、手書きの領収書も認めていた。
過去の数カ月分の飲食をまとめると、4つの店で数社の取引先と繰り返し飲食している。金額はいずれも4000円前後だった。支店長は単身赴任である。ひょっとして仕事が終わったあとの夕食を1人で食べているのではと疑い始めた。店の場所をネットで検索すると、すべて支店から歩いて行けるところだった。
そのため、3カ月分の飲食した店と金額および相手先の名前を一覧表にして支店に送付し、それぞれの懇談内容を簡単に報告するように依頼した。まもなく報告書が届いた。すると、それ以後は、同様の経費請求はしなくなった。おそらく私的な飲食を疑われていると察して自重したのであろう。
そして支店長が転勤した翌年、経理担当者は、たまたま監査でその支店に赴いたことがあった。会議室で支店の社員が「前任の○○支店長は、営業成績がよくなかったので、気分の発散のためなのか、1人で飲んでいることが多かった」と語っていた。
彼が書類から推測していたことに間違いはなかったと思った瞬間だった。
このように彼は出張した時は、精算票に書かれた飲食店に立ち寄り、課題のある社員と直接面談をすることもある。実際に店で飲食すると精算表に書かれていることが立体的に理解できるそうだ。
経費の使い方が荒っぽい社員から中華料理店の手書き領収書が提出されたことがある。領収書にある住所に彼が行ってみると、怪しげなネオンサインのあるキャバレーだった。
彼らは、オフィスで書類を通じて現地に照会するだけでは納得できないので現場に赴く。話を聞いていると、中途半端なまま仕事を残しておけない性質なのだろう。本当は刑事や探偵にでもなったほうがよかったのではないかと思いながら、身銭を切って調べている彼らの話を聞くと、日本のサラリーマンもまだまだ大丈夫だと思った次第である。