リボンの刺青をした世界チャンピオン

肉体的超人計画――。このような愚かに思えることを私が考えるようになったのは、骨肉腫を克服し、ボクシングの世界ミドル級チャンピオンになったダニエル・ジェイコブスの勇姿をテレビで見たからです。彼は24歳の全盛期のときに脊椎に野球のボール大の骨肉腫ができ、治療で1年7カ月のブランクをつくりながらも、医者の反対を押し切って復帰。そこから2年足らずで世界チャンピオンになったため、「ミラクルマン」(奇跡を持つ男)と呼ばれています。

世界のベルトを腰に巻いたミラクルマンは「これは奇跡だ。入院中は息子が生きがいだったが、いまはリングで戦うことが次のモチベーションになった。強い気持ちを持っていれば何にでも勝てるということをボクシングが教えてくれた」と歓喜の言葉を叫び、ボクシングファンに感動を与えただけでなく、がん闘病者にも勇気と希望を与えました。

ミラクルマンは、がんの情報発信・疾患啓発のシンボルであるリボンを、左鎖骨下に刺青として入れていることからもわかるように、がん闘病者に勇気と希望を与えるためにも、まさに命がけで闘い続けています。キレのある強打を誇る彼の戦績は33戦32勝(29KO)1敗。現在、4度の防衛を果たし、全階級合わせた世界チャンピオンのなかでも、トップクラスの選手といっても過言ではありません。

ミラクルマンのようなケースは極めて稀というか、まさに奇跡なのでしょうが、療養ばかりに気持ちがいっては、命が先細りするばかりです。少なくとも主治医から「治るとは思わないでください」といわれている妻の場合はそうです。療養という名の制約ばかりでは、下手をすれば生きがいを奪われてしまいます。これでは“生きたい”という気持ちも弱まり、免疫力が下がる一方です。

ただ妻の場合、これといったスポーツ経験がないため、肉体的超人計画といっても、かなりハードルを下げたところから始めなくてはなりません。そこで考えたのがパワーウォーキングです。健康のために単に散歩するのではなく、きれいなフォームで少し早歩きすることを心がけています。たいしたことではありませんが、以前はいかにも病人みたいな歩き方をしていた妻が、いまでは見違えるほど健康的な歩き方に変わりました。まだまだこれからですが、少しずつ肉体的超人計画を進めていきたいと思っています。

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