がんになってみなければわからない気持ちがある――。がん患者が投稿する患者用コミュニティサイト「5years-ファイブイヤーズ-」は、自らが精巣がんを経験したという大久保淳一さんが立ち上げました。ご自身の闘病中、社会復帰した先輩患者を探すのに苦労したという体験から、患者が欲しい情報を共有しあえる場をネット上で始め、今では1000人近い登録者がいます。患者の気持ち、患者が欲しい情報とは何か、大久保さんに聞きました。

普段どおりに接してほしいのに……

9年前、マラソンの練習中に足を怪我したことがきっかけで精巣がんが見つかりました。そのとき私は100キロのウルトラマラソンに参加するほど体力があったのですが、幾度もの手術や抗がん剤治療などで何度も死を意識することになりました。しかし、そこから体力づくりをして、2年前、北海道サロマ湖100キロウルトラマラソンに復帰できるまでになったのです。

大久保淳一・ファイブイヤーズ代表

自分が患者になったとき、身体的な辛さもありましたが、それ以上に辛かったのは周囲の人たちからかけられる何気ない言葉でした。がん患者になると、誰しも孤独を感じ、死を意識するようになります。皆、なるべく死のほうに意識が引っ張られないよう心の中で葛藤して頑張っているのに、周りから死を意識するようなことを言われると恐ろしくなります。これは患者と近しい関係の人が、本人を心配するあまり言ってしまうことが多いようです。私の場合は両親でした。母に「私より先に逝かないでくれ」と泣かれ、父からは、「(手術の)麻酔の事故だって怖いから気を付けて」と言われました。それで親との関係がギクシャクしたこともありました。自分の病気のせいで親に泣かれると、まるで自分が親不孝をしている気持ちになって辛かった。

治療法に口出しをされるのにも閉口しました。親戚から「抗がん剤治療ではなく、週刊誌に載っていたこっちの○○療法にしたら」と言われたことがあります。何とか私の力になりたいという気持ちはありがたいのですが、こちらは担当医と相談し、いろいろと調べて考え抜いた結果、抗がん剤治療を受け入れたにもかかわらず、それを覆すような意見は大きなストレスになります。

自分のために家族が我慢をしたり、犠牲になるのも嫌でした。当時、小学生だった子どもが、休日に映画を観に行きたいのに、私のお見舞いのために我慢して病院に来るなんて、父親として不甲斐なく感じたので、子どもが行きたいところがあれば遊びに連れて行ってあげてほしいと妻に頼んでいました。親が子に我慢を強いるなんて、したくなかったからです。

友人や知人からいろんな言葉もかけられました。「かわいそう」、「気の毒だ」、「君みたいな良い人が、なぜ……」とか。でも、がんって人を裁くものではありません。誰もがなりうる病気で、哀れに思われるとみじめになります。がん患者に言葉をかけるのは難しいかもしれませんが、患者としては、やっぱり普段どおりの普通の会話が一番嬉しいのです。

あるとき、病室で心細くなって、妻に電話をかけたことがありました。弱音を吐く私に、妻が、「子どもたちが学校から帰ってきて、お腹、すかしていているのよ。大急ぎで晩御飯つくらなくちゃいけないの。あなたも大変かもしれないけど、私も大変なのよ。じゃあ、切るね」と言われたとき、なんだかとてもホッとしたのを覚えています。「あー、自分の病気なんて、妻の忙しさに比べれば、たいしたことないんだ」って。

確かに、病気になると、精神的に不安定になりますが、うつ症状は抗がん剤治療の副作用でもあるのです。ですから、浮き沈みがあって難しいかもしれませんが、そんなものだと思ってつきあっていけばいいと思います。