視点2「知の探索」~国際航空宇宙展に出展

2つ目の視点は、「知の探索」です。経営学では、イノベーションは異なる知の掛け合わせによって起こることがわかっています。したがって組織がイノベーションを起こすためには、組織が掛け合わせのための多様な知を得ること、すなわち「知の探索」が非常に重要なのです。

由紀精密の場合、自社の切削加工技術が、航空・宇宙や医療のどの部分に掛け合わされる可能性があり、どのような技術革新ができるのかを探るために、それぞれの分野の専門知識を得なくてはなりませんでした。

ここで大坪氏は、ウルトラCを実行します。自分たちの技術が何の役に立つのかよくわからないまま、2008年、国際航空宇宙展に出展したのです。自分たちで一から学んでいたら時間がかかりすぎるので、展示会で技術を公開して、航空・宇宙業界のプレイヤーに、由紀精密の技術が何に使えるのか教えてもらおうと考えたのです。まさに「知の探索」といえるでしょう。

運の良いことに、その展示会では、三菱リージョナルジェット(MRJ)を開発する三菱航空機のブースが向かいだったそうです。MRJのブースに来た客が、向かいに並んでいる精密部品を見て、航空部品メーカーだと思って「こういう部品は作れますか?」と話しかけてくる。航空宇宙分野への第一歩は、こうして始まったそうです。その後、2009年にはJISQ9100(航空宇宙品質マネジメント)を取得し、2011年にはパリ航空宇宙ショーに単独出展するなど、知の探索を続けています。このように、まるで偶然で決まったような新事業ですが、これは大坪氏にとにかく新しいことをトライしようという「探索」の姿勢があったから生まれたのです。

由紀精密の強みは、JAXAも認めた精密さにある。2012年に経済産業省「中小企業IT経営力大賞優秀賞」を受賞。制作工程には手作業も含まれ、若手や女性などへの技術の継承も進めている。