成功のポイントは軌道修正にあり

最後に、現実のビジネスにおけるエフェクチュエーションが生む成功例を紹介しましょう。リクルートが2012年に始めたオンライン予備校「スタディサプリ(旧・受験サプリ)」です。

このサービスが生まれるきっかけとなったのは、高校生の進路選択を応援する情報サービス「リクナビ進学」の担当者が、その改善のために行っていた高校生への調査でした。初めは、受験情報や進路選択にまつわる悩みを聞いて回っていましたが、地方のある高校生から「そもそも勉強する環境がない」と言われたことが転機になります。

定量調査を行ってみると、住んでいる場所や金額的な理由もあり、予備校や塾に通う現役受験生の比率は3割にすぎないことがわかりました。進路選択を行う以前のところに問題はあったのです。そこで、社内のチームで議論し、安価で誰でも利用できるオンライン予備校をつくるアイデアが生まれます。このアイデアは、当初の調査目的をはみ出しています。しかし、社内コンペでグランプリを受賞し、事業化できることになりました。

その後も見直しの連続でした。開始当初のスタディサプリの料金は、1講座5000円の買い切り型でした。事前の市場調査では高評価だったのですが、実際にはほとんど誰も申し込みませんでした。予備校の価格と比べれば激安でも、アプリの価格としては高額すぎたのです。そこで、月額980円で全講座使い放題に切り替えて、ようやく軌道に乗せることができました。

このように、行動する中で省察を繰り返し、軌道修正を図りながら新たな市場を切り拓いていくことがエフェクチュエーションです。未来を見通すことが困難な現代だからこそ、エフェクチュエーションは有効なマーケティング手法となります。

※Effectuation, Causation, and Bricolage: A Behavioral Comparison of Emerging Theories in Entrepreneurship Research

(構成=増田忠英 写真=AFLO)
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