相手が変わり、自分も変わる「柔らかな制御」

他方、市場プロセス・マネジメントは、市場において、マーケティング諸活動が相手に対して作用する、そして相手から逆に反作用を受ける、そうした「相互行為の場」をマネジメントの対象とする。

まず、顧客(消費者や取引相手)と「相互行為を行う場」を設定する。そしてその場で顧客といろいろな相互行為が行われる。肝心なことは、相手だけが変わるのではなく、自分も柔軟に変わることで、お互いにとって共生的な価値づくりを目指すことだ。

共生的な価値の創造とは、メーカーから顧客に価値が水道管を通って配達されるプロセスのイメージではなく、「互いに対話を重ねながら両方にとって意味のある価値を創造するプロセス」である。

先の計画制御とは対照的に、状況の予測が立たない不確定な場合に、このマネジメント・スタイルが採用される。問題は、「自分が変わり相手が変わる」という不確定なプロセスに、マネジメントという考え方が応用できるか。「相手あっての話」「どう出てくるかわからない相手に、予測して意味があるのか」「相手の出方を見て、その場その場で考えていくしかないのでは……」となりがちだ。

しかし、それだと、場当たりマネジメントになってしまう。場当たりマネジメントとは、「とりあえずやってみる。やってダメなら、もう1度最初からやり直す」というやり方。「一所懸命やる」「ダメならやり直す」というのは現場・戦術の論理として悪くないが、戦略的に考えないといけないマネジャーが言う言葉ではない。

場当たりに陥らないマネジメント、それは「予期して備える」マネジメントだ。あらかじめ起こることを予期して、それに備えてオプションを準備する。これこそが戦略的である。

昔、長嶋監督がさかんに「勝利の方程式」と言っていたことがある。野球の試合も相手があっての話。相手の出方はわからない。一球の失投や野手のミスが試合の帰趨を決める。しかし、長嶋監督は、そうした不確定性に満ちた野球の試合でも、「勝利のためのシナリオはある」と考えた。1回から9回までシナリオを準備する。5回になれば先発投手は疲れてくるので、交替を考える。後半に入って僅差で争うとき、ワンポイント・リリーフ役の立てどきを考え、9回はいつものように抑えの切り札を、というわけだ。

不確定な事態であればあるほど、こうしたシナリオを描き、各モメントで複数のオプションを持つことが大事だ。予測できない市場プロセスにも「勝利の方程式」を描くことはできる。