公費で建てた球場の使用料は年間「1ドル」
この差を生んでいるのは、テレビ視聴システムの違いである。日本ではNHK以外の地上波放送が無料で視聴できるのに対し、米国では水道光熱費よろしく月々150~200ドル払ってケーブルテレビか衛星放送と契約しない限り、視聴できない。国土が広大な米国では、ケーブルテレビは国家のインフラであり、規制により一地域一業者の独占事業となっているため、コンテンツ取得に必要な費用は容易に視聴者に転嫁できるのだ。
有力なコンテンツなら、ペイ・パー・ビュー方式で課金することも可能だ。2015年に行われた人気ボクサー同士の世界戦、F・メイウェザー対M・パッキャオの場合、視聴料はハイビジョン画質で99ドル95セント(1万2000円)だった。
ケーブルテレビ事業者にとって最も有力なコンテンツはアメリカンフットボール、野球、バスケットボール、アイスホッケーの4大プロスポーツの中継であり、その放送権を持つESPNは、スポーツ専門チャンネルながら、年間売上高が日本最大のテレビメディア・グループ、フジ・メディア・ホールディングスの2倍以上、110億ドル(1兆3200億円)以上と推定されている。
録画機による視聴者のCM飛ばしは、米国でも一般的だ。しかしスポーツ中継はリアルタイムの視聴が普通。CMは確実に視聴者に届けられる。最も人気の高いアメリカンフットボールのスーパーボールともなれば、スポットCMの価格は30秒で500万ドル(6億円)。単純に比較はできないが、日本では「報道ステーション」など最高ランクの放送枠でも、30秒で100万円程度だ。このように米国には、テレビ中継を通じて巨額の放送権料がプロスポーツ界に流れ込む仕組みがある。
MLBは政府や自治体との関係でも、日本では考えられないほどの優遇を受けている。
シカゴ・ホワイトソックスは80年代後半、老朽化したフランチャイズ球場の建て直しを地元のシカゴ市とイリノイ州に要求、「専用球場を建ててもらえないのであれば、フロリダ州のタンパに移転する」と宣言した。住民投票の結果、「ダウンタウンの再開発」を大義名分に、球場建設費用の全額助成と、球場の運営費用として年間1000万ドルまで行政側が負担することが決まった。365日24時間使用する権利が球団に与えられた新球場の使用料は、年間「1ドル」だった。
公費による専用球場の建設はシカゴに限らず、90年前後にボルティモアやクリーブランドなど、全米各地で一斉に始まった。当時の米国では、都市中心部の空洞化や治安の悪化が進み、その解決の手段として、球場を中心とするダウンタウンの再開発が計画された。MLBの各球団は、そのムーブメントに乗る形で、一斉に自治体に球場建設を要求し、「やってくれないなら出ていく」と揺さぶりをかけた。結果、今やほとんどの球団で球場建設費用に税金が投入されるようになっている。
米国では自治体と球団の間で、「球団の年間動員数が200万人に達しなかった場合、自治体がその損失を補償する」といった補償契約が結ばれることも多い。シカゴのホワイトソックスやコロラドのロッキーズなどがそうだ。米国において自治体は、日本における球団の親会社のように、球団の存続を担保する役割を果たしているのである。