かつて日本球界の経済規模は米メジャーを凌駕

年配の野球ファンなら、ケビン・ミッチェル、フリオ・フランコら、米国のメジャーリーグ(MLB)の超大物選手が続々と日本にやってきた時代をご記憶かもしれない。

直接の原因は1994年にMLBで起きたスト騒動だったが、背景には日本のプロ野球の経済規模があった。90年代前半の日本のプロ野球球団の年商は、推定で1チーム平均約100億円。26球団で15億ドル(1ドル=120円として1800億円)程度のMLBのそれを凌駕していたのだ。

しかしその後、MLBの1球団あたりの年商は日本のそれの2.5倍以上に伸び、トップチームの選手の平均年俸では7倍以上もの差がついてしまった。かつてはMLBのスター選手が日本に移籍すると「金のためだろう」といわれたが、ここ20年で完全に立場が逆転している。

同じ現象はサッカーにも見られる。93年にサッカーのJリーグが発足してから数年間、Jリーグの経済規模は世界トップクラスだった。総収入額は500億円台とイングランドのプレミアリーグと肩を並べ、各チームの売上高も、アーセナルやマンチェスター・ユナイテッドなど世界のトップチームと同水準だった。しかしJリーグの売り上げがその後の20年間低迷を続ける間に、プレミアリーグの売り上げは約30億ユーロ(1ユーロ=130円として、3900億円)と圧倒的な差をつけられた。

日本のプロスポーツの経済規模は、なぜ拡大しないのだろうか。

原因の1つは、日本経済そのものの停滞にある。欧州も北米も、20年前と比べて経済規模が2倍以上に伸びているが、日本は当時が100なら98程度と、むしろ縮小した。

だが、理由はそれだけではない。野球を例にとると、日米のプロ球団の経営環境において最も大きく異なるのは、テレビ放送料と税金である。

日本のテレビ市場の規模は4兆円前後。対する米国は17兆円以上。人口が2倍以上であることを差し引いても、差は歴然だ。MLBでは公式戦の全国放送の放送権をリーグが一括で管理しており、これが15億ドル(1800億円)の収入を生む。一方で各球団の本拠地のローカル放送の放送権は球団に属し、そこからの収入を加えた放送権総額は29億ドル(3480億円)。それだけで日本のプロ野球の総売り上げの2倍を超える。

ロサンゼルス・ドジャースがフランチャイズのローカル放送局と契約した周辺地域限定の試合放送権料は、25年間で70億ドル(8400億円)。1年あたり336億円である。

かつて日本で読売ジャイアンツが不動の人気を誇っていた時代、たとえば藤田元司監督が指揮を執っていた時期の巨人戦の視聴率は平均で25%を超えていたが、それでも1試合の全国放送権料は1億~1億5000万円程度だった。