【ここがクリエイティブ
@一橋大学大学院商学研究科教授 守島基博】
「敵は内(うち)にある」ことを社員に対し意識付けしていった点が、このケースの先駆性でしょう。多くの企業では、残業が減らない理由を「お客さんのため」「競争環境が厳しくなったから」と、外部の要因に求めてしまいます。しかし、社員が自分自身で残業を減らす努力をしなければ、誰も減らしてはくれません。
上司へ報告するためだけの分厚いエクセル資料をつくったことはありませんか。顧客へのプレゼンでアニメーションを多用したことはありませんか。多くの人は、こういった作業がムダだと気づいている。にもかかわらず、上司の顔や社内の慣習を気にするあまり、アクションに結びつけることができないのです。
松井社長は「どうしたら残業をゼロにできるか」という方法論から入るのではなく、まず「残業ゼロありき」と決めてしまうことによって、社員に自らの仕事のやり方を見直させました。社員は限られた時間の中で業務をやり遂げようと、自分を追い込む。そこに新たな工夫が生まれ、業務は効率化するはずです。
ただ、この試みが、今後も継続するか否かは、企業と社員が「WIN-WIN」の関係を築くことができるかどうかにかかっています。企業側には、コストダウンというメリットがある。では、社員側には何があるか。ポイントは「残業代ゼロではなく、残業ゼロ」であることを社員に理解してもらうことです。生産性向上に給与や賞与で今まで以上に報いることも必要でしょう。そのうえで、余った時間を上手に使えばこんないいことがあるんだよ、ということを社員に対して示すことも重要です。
(永井 浩=撮影)