「攻めの経営」のための手法となるか

今年4月にかけて注目を集めたセブン&アイホールディングスの人事騒動で、カリスマ会長による人事案に待ったをかけたのは、同社が備えた企業統治システムだった。指名・報酬委員会が絶対的権力者と見られた会長の人事案に不賛同で、取締役会の決議でも却下。結果、会長は退任を余儀なくされた。

また、燃費データの不正で顧客離れを招いた三菱自動車は、ライバル企業だった日産自動車の傘下に入った。三菱東京UFJ銀行、三菱商事、三菱重工業などの三菱グループ主要企業が、株主からの責任追及を慮り旧来型の救済に動けなかったと推察される。

こうした変化はあるが、社外取締役をとっても、単に人数合わせだけではうまく機能しない。経営トップの親しい人物を据えたお仲間クラブでは、何ら牽制作用は期待できないからだ。社外取締役には資質、気概が求められるのは言うまでもない。いかなる仕組みも、トップ主導の不正をシャットアウトすることはできないからだ。

コーポレートガバナンスは、不祥事対策だけのためにあるわけではなく、ここ数年「攻めの経営」のための手法としての注目度を高めている。社外取締役、あるいは株主との対話を外部からの知恵を取り入れるための機会とするというものだ。

日本の株式市場は企業間の持ち合いや系列など、海外投資家にとって不透明な要素が少なからず存在した。しかし、上場企業の株式持ち合い比率はバブル期のピーク50%超から低下し、直近では15%水準まで低下している。その一方で、外国人株主の持ち株比率が5%足らずからすでに30%台に達している。

世界的な潮流を見ると、投資家の理解を得る経営を行い、株主以外のステークホルダーの利益も考慮した経営を求める傾向が強まっている。この本は、コーポレートガバナンスを取り巻く動きを、世界的な視点から示している。

アップルがスティーブ・ジョブズ追放後に危機的状況へと陥った時、ジョブズの復権に奔走したのが社外取締役・元デュポンCEOのエドガー・ウーラード氏だった。その後の同社の快進撃は周知の通りだ。

それからおよそ20年を経たいま。日本企業のガバナンスへの取り組みが、世界的な尺度で試されようとしている。

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