研究所としては、いいものをつくらなければいけません。バラバラになっていたみんなの心を一つにするために、130人いた研究所のメンバー全員の意見を聞いてみようと、1対1の面談をスタートしました。1人15分で2時間やれば1日8人、130人なので16日間あまり。土日を入れても1カ月もあればできると計算して始めたものの、実際にやってみると、1人で2~3時間かかる。結局、全員終えるのに半年間かかりました。
みんなの意見を聞いているうちに、あるパターンが浮かんできました。最初は「今回うまくいかなかった理由をどう思うか」「自分の役割はどうか」といった直面する仕事の話から入るのですが、時間がたつにつれて、「ちょっと聞いてもらってもいいですか」「最近子供が生まれたんです」「そろそろ結婚を考えていて」などと、家庭の話になるのです。
それぞれ事情があり、こちらからプライベートの話を聞こうとするのはよくないことですが、時間をかけてフェース・トゥ・フェースで話をすると、仕事だけではない本音が見えてきます。そうすると、次にすれ違ったときに、「赤ちゃん、元気?」と一声かけることができる。「あの仕事どうなっている?」と聞けば、喜んで進捗を説明してくれます。研究所のトップが自分の存在を認めてくれているというだけで、人は元気になるのです。
対話によって、一人ひとりが活性化するだけでなく、横のつながりも強化されました。所長になったころの会議は雰囲気も悪く、100アイデアを出すべきところで20~30しか出なかったのが、対話をしてからは、200出るようになりました。議論も活性化し、あちこちで連携が生まれる。これこそ、マネジャーがやるべき仕事なのだとあらためて感じました。
花王グループのトップになった今は、約3万5000人の社員全員と1対1で話すわけにもいかないので、8人程度を1グループで行う「現場ラウンドテーブルミーティング」をやっています。海外でも、直属のマネジャーを入れずに、私と出席者だけで約2時間話をします。
外国人は仕事とプライベートは別だと割り切っているのかと思っていましたが、意外にも、みんな延々と自分の話をします。それくらい、自分の存在を知ってほしいと思っているのです。気持ちよく話をした後は、みんな笑顔で退出していきます。ここでも対話はきずな意識を高めるのに一役買っているのです。