上司を説得する。部下を動かす。得意先に買ってもらう――。なぜ、あなたの話は伝わらないのか。結果を出してきた経営トップが、“ゼロ秒で口説く”極意を明かす。

失敗談を披露して心を開かせる

リコー社長 三浦善司氏

私は学生時代から、話があまり得意ではありませんでした。いまでも人前で話をするのは苦手です。自分の考えや意見を、目の前の相手にストレートに伝えることしかできないのです。

そんな私が下手に小手先のテクニックに頼ったら、失敗するに決まっています。だから、コミュニケーションは日本でも海外でも、「ダメならダメ、やるならやる」と、自分の思いを直球で伝えて勝負すると決めています。

もし、受け入れてもらえなければ、それは相手が最初から私と仲よくやりたいと思っていないのだと考えるようにしています。なかには「あんなにはっきりものを言うやつは嫌いだ」と言う人もいます。でも、私にはこのスタイルしかないので、そういう場合はあきらめるしかありません。

ただ、外国人に対するときは、意識してロジカルに話すようにしています。まず結論を伝え、その理由や根拠、そして具体的な事例や提案と、順序立てて話を進める。そうしなければ、相手に理解されないことが多いからです。日本人は曖昧な表現で伝えても、お互いがなんとなくわかった気になって満足するようなところがあります。こうした阿吽の呼吸は、特に欧米人には通用しません。

私は日本で会議をやるとき、外国人がひとりでも参加していたら、通訳は入れず、英語で話すようにしています。通訳を入れてしまうと、日本語独特の曖昧な表現や言い回しが相手に間違って伝わる可能性を、どうしても排除できないからです。

海外では、ロジカルに伝えることが仕事の生産性にもかかわってきます。よく、アメリカ人はお金のことばかり言うとか、ラテン系の国の労働者は働かないとか言いますが、決してそんなことはありません。仕事の評価がお金だったり、家族や家庭を大事にする文化だったりするだけで、基本的にはどこの国でも、9割以上の人たちはいい仕事をしたいと思っています。だから、こちらが目標値や、こうすれば達成できるという道筋を、論理立てて説明できれば、彼らはちゃんと働いてくれるのです。