実際に経験したこともあります。1993年にフランスのディストリビューター(販売代理店)を買収したとき、当時リコーフランスの社長だった私は、買収先の社員にこう言いました。
「これまでは販売代理店という立場でリコーの製品を売ってもらっていたけれども、リコー傘下になったのだからこれからは自社製品だと言って売ることができる。間に入っていた会社がなくなるので、売り方も自分たちの自由だ。売れば売っただけ、給料もボーナスも増える。だから、これまでの2倍は売れなければおかしいぞ」
その結果、彼らの売り上げは最終的には本当に2倍になりました。もし、私が上から「2倍売れ」と、ただ目標を押しつけただけだったら、おそらく彼らも反発して、これほど売り上げを伸ばすことはできなかったはずです。
社員に対してコミュニケーションをとるうえでは、同じことを繰り返し伝えることも必要です。特にトップが自分の考えを組織の隅々にまで浸透させるには、しつこいくらい言い続けなければなりません。
私は社長就任以来、自分のモットーでもある「ミッション、パッション、インテグリティ」(使命感と情熱をもち、誠実に事にあたるという意味)をリコーに根付かせようと、世界中どこでスピーチをするときも、必ず話の最後につけ加えるようにしています。とりわけ、3つ目のインテグリティ(誠実さ)は、仕事をするうえでなくてはならないもの。これがリコーの文化となるまで、今後も言い続けるつもりです。
もちろん、繰り返し伝えるといっても、発信者が私一人だけでは限界があります。そこで、私の考えを私に代わって伝えてくれる“伝道師”を社内に増やすために、役員や部長たちと頻繁に会って、彼らと意見交換をするようにしています。
膝をつめて話をすれば、私の人となりも相手にわかってもらえます。私は、会議の席でも自分が正しいと思ったことしか言いません。そのため、私のことを、まじめなだけの堅い人間だと思っている人が社内にはたくさんいるようなのです。
つい先日も、ある役員と初めてじっくり話をして、そこで私の過去の失敗体験を披露したら、「三浦さんでも失敗することがあるのですね」と驚かれました。会って話をすれば、誰だって社長も完璧じゃないとわかります。そうしたら相手の肩の力も抜けて、私の言っていることにも素直に耳を傾けてくれるようになるのではないかと期待しています。