神経伝達の構造からして、嗅覚は視覚や聴覚と違う仕組みなのだ。
「視覚情報は目から入ったものが、いったん視床で仕分けられてから大脳中枢の後頭葉に行きます。嗅覚情報は、感情や記憶を司る『大脳辺縁系』を経由して、大脳皮質の嗅覚野に行き、快不快を判断しています。そのため、ニオイの快不快の判断は感情や記憶に強く影響されます。ニオイの分子の種類で快・不快が決まるわけではありません。赤ん坊は大便のニオイを嫌いませんし、大人になれば、好きな人のニオイは好ましく、嫌いな人のニオイは好ましくなく感じる。ニオイにまつわる経験や記憶が好悪を判断している。イメージが大きく左右するのです」
とはいえ、人からクサいと指摘されたときのショックは大きい。いじめでもよく用いられる残酷な言葉の筆頭でもある。
「クサいと言われたほうは、自分の存在を否定された気持ちになる。ニオイで悩みだすと自己否定的になり、人間関係を拒否するようになります。極端になると学校や会社に行けなくなってしまう」
自分が他人に悪印象を与えているのではないか、自分は変に見られていないかという恐怖心に苛まれ、「体臭恐怖」や「自己臭恐怖」で悩んでいる人も多いのだそうだ。家族間でもクサいと注意するのはくれぐれも慎重に。
「本来、ニオイとは個性です。腋のニオイでも同じ人は1人もいません。間違ったニオイ対策は自己否定に繋がるのです」