自社の強みを発揮できる有望な「市場」を見極めよ
250円の部品市場から、100倍も高い2万5000円の製品単価を実現した、それがDG TAKANOだ。
価格競争が激しいガスレンジの火力調整ツマミの市場から、自社の技術力を新市場に横展開し、水道の節水蛇口市場に転換した。従来の単価と比較して100倍もする製品単価を実現させて成功した企業を紹介する。なぜそのような市場の進化が可能になったのか。その具体的な進化への取り組みと成功ポイントを浮き彫りにしていく。
▼もともとは職人による部品メーカー
高野精工社は1961年に創業し、業務用ガスレンジの火力調整ツマミを製造する部品メーカーだ。同社は不良品率が1万個に1個という品質の高さを売り物にしていたが、2005年頃より中国や韓国から低価格部品が流入したため価格競争に巻き込まれ、厳しい経営環境に追い込まれた。
▼エキスパートの力を借りて、新たな依頼に挑戦
この窮状を打破するきっかけは、3代目の高野雅彰氏のもとに節水製品の依頼が入ったことだった。水に関しては全くノウハウのない高野氏は、これまでにない節水製品をつくるために「合同会社デザイナーズギルド」を2008年に立ち上げ、大和ハウスなどの企業のエキスパートから水市場の助言を受け、設計は高野氏が担当した。
▼節水率が高い水道の蛇口ノズルの開発に成功
既存節水製品の構造や機能・性能などを比較分析し、特許資料を調査するなどした後に、試作品の製造に着手。10数回に及ぶ設計変更を重ね、「水質を問わず、目詰まりせず、メンテナンスが容易で節水率が高い」ノズルを2009年に完成させた。
製造は実家の高野精工社の工場設備を使い、高野氏が行った。製造過程で熟練の技を必要とする部分があり、そこは高野氏の父親の高野善行社長が行った。彼は切削加工の職人で、1000分の1ミリメートル単位の精度で金属を切削加工する熟練の技を持っており、この技によって製品化に成功した。
この蛇口ノズルは「バブル90」と命名された、最大で95%の節水率を実現し、少量の水に大量の空気を効率よく混合させ、使用感や洗浄力を損なわず、手洗いや洗浄など用途に併せて必要最低限の水を出すことができる。
調整リングを回せば水量の調節が可能で、水圧が高いほど節水効果も高くなる。ヨーロッパや中国などの水質は硬水で一般的な水栓では内部が詰まりやすいが、「バブル90」はノズルを下に引っ張ると、サビや泥水の詰まりを取り除けるため、水質を選ばず詰まる心配もない。