トランプ候補が日本の核保有容認を示唆

米大統領選の共和党候補者レースでトップを走るドナルド・トランプ氏がメディアのインタビューで日本や韓国の核保有容認を示唆する発言をして波紋を呼んでいる。

「外交や核政策、朝鮮半島をわかっていない。そんな人物に大統領になってほしくない」とオバマ大統領から痛烈に批判されるなど風当たりが強まっても当人はどこ吹く風。遊説先で同じような発言を繰り返したり、逆に「メディアによる嘘」と否定してみせたり、お騒がせぶりを発揮している。

トランプ氏は日本や韓国の「安保タダ乗り」批判を展開し、「日本や韓国が自力で国を守れば米国はもっと豊かになれる」とアメリカ第一の姿勢を訴えてきた。核保有容認はその延長線上に出た発言であり、深い考えや思想信条に基づいたものではなかろう。

とはいえ有力な大統領候補の発言である。韓国はトランプ発言の直後に反応して、「朝鮮半島の非核化をアメリカと合意して、北の核開発をやめさせようと国を挙げて取り組んでいるときに不適切な発言だ」と声明を出した。一方、日本政府からは目立った反応はなかった。安倍政権からすれば、トランプ発言は心地よい子守歌になったのではないかと思う。

トランプ発言から間もなく、核安全保障サミットがワシントンDCで開催され、安倍首相も出席した。サミット自体は、「核なき世界」というプラハ演説でノーベル平和賞を受賞しながら、何ら具体的な成果を残せずに退陣するオバマ大統領が自らのレガシーのために主宰した国際政治ショーにすぎない。実際、核大国ロシアのプーチン大統領が欠席したミーティングに、見るべき成果は何もない。

むしろ見逃せないのは安倍首相が留守中の国内の動き。政府は4月1日の閣議で、「憲法9条は一切の核兵器の保有および使用を禁止しているわけではない」とする答弁書を決定した。併せて、「非核三原則により、政策上の方針として一切の核兵器を保有しないという原則を堅持している」との見解を示した。

核兵器使用は「憲法上、禁止されているとは考えていない」という見解を示した(横畠裕介内閣法制局長官=右手前、3月18日)。(写真=時事通信フォト)

これは3月に野党議員から提出された質問主意書(政府見解を質す文書)に対する政府の答弁書。先立って予算委員会で横畠裕介内閣法制局長官が「憲法上、あらゆる種類の核兵器の使用が禁止されているとは考えていない」と述べたことを踏まえての答弁だ。

これまで政府は核兵器の保有は憲法9条に反しないという立場を取ってきた。しかし、安倍政権はさらに一歩踏み込んで、憲法の番人である内閣法制局長官に露払いをさせたうえで、「核兵器の使用を含めて合憲」という立場を初めて示したのである。核兵器を保有することも使うことも憲法上の制約はないが、非核三原則を国是としているがゆえに現状は政策的に核兵器を保有していない――。この政府見解の裏を返せば、いざとなれば非核三原則を破棄して、核兵器を保有し、使用することも合憲であり政策上の選択肢としてありうる、と暗に言っているようなものだ。