ネット通販大手のアマゾンジャパンは4月、全商品“送料無料”の見直しを発表した。2000円未満の商品は新たに350円の配送料がかかることになった。

このことを「配送コストの増大に耐えきれなくなって価格転嫁した」と見る向きがある。株式市場では楽天やヤフーの株価が上昇した。今回の判断が同業他社にとって優位に働くと見られたためだろう。

しかし、私はアマゾンの本当の狙いは、顧客を有料のプライム会員に誘導すること、ひいては「ロイヤルカスタマーの囲い込み」にあると考える。配送料がかかるのは通常会員だけで、年会費3900円を支払うプライム会員は無料のままだからだ。

インターネットは世の中のインフラとして定着し、全く利用しない人は少数派になった。ネット通販業界も利用者増を背景とした単純な成長期を終え、利用の成熟に伴う新たな成長期を迎えつつある。既存顧客のロイヤルカスタマー化による囲い込みが重要となってきている。アマゾンの送料無料中止についてもこの観点で理解されるべきだろう。楽天は楽天市場での買い物で付与されるポイントと楽天カードを連携させるなど、顧客囲い込みを早くから進めて成功を収めてきたし、ヤフーも有料会員「Yahoo! プレミアム」のサービスを拡充させることなどで、ネット通販の利用増大に繋げている。

ネット通販業界では、家電製品などの耐久財よりも、食品や衣料、生活雑貨などの非耐久財の売上成長率が加速している。1回の購入あたりの利益は薄くなっても、購入頻度が増えることや購入する売り場が定着することによるメリットを期待しやすい状況となりつつある。

各社、サービスの拡充などで短期的には収益が悪化しても、総合的なネット通販プラットフォームとしての地位を確立できれば、長期的に得られる果実は大きいだろう。

(構成=衣谷 康 撮影=宇佐美利明)
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