プレス加工の大手は、当初10年3月までに移設する計画だった。しかし、高岡がこのサプライヤーの役員に「遅れるほど、コストメリットと面積は減ってしまいます」と促し、09年末までに移設を完了させた。すでに栃木工場のラインサイドで操業している。
建屋内には、日産とは違うユニホームを着た人たちが働いているのだ。
「最初は、双方に戸惑いがありました」
と、高岡は告白する。当然のことだ。サプライヤーにすれば、自動車工場のラインサイドで操業した経験はない。日産にしても、工場にサプライヤーを受け入れたことはなかった。しかし、戸惑っている暇はなかった。
高岡が想定した09年度の為替水準は1ドル95円。ところが10年3月1日現在、89円前後である。
栃木工場はFR(フロントエンジン・リアドライブ)の高級車ばかり8車種を生産。輸出比率は8割に及ぶ。円高の影響は計り知れない。
「日本のものづくり屋さんが、多様に集まると、いろんな発想が出てきます。知恵を出し合って、なりふり構わない原価低減を推し進めなければ、日本でのものづくりは不可能になってしまいます」
自動車メーカーとサプライヤーといった垣根を取り払い、サプライチェーンが一体となってコスト低減に挑む形である。溶接の打点数低減、自動搬送車の有効活用、検査治具の工夫など、違うユニホームの従業員たちは共同で、知恵を出し合っている。従来、サプライヤーの工場で組んでいたモジュールを栃木工場のライン側で組んだり、あるいはその逆にしたりと、試行錯誤は続く。
双方の意識改革が前提であり、これは、自分たちの都合よりも全体最適を優先する新しい日本型のものづくりへの挑戦でもある。
各工程でも日々コスト削減に取り組んでいる。現場が経営意識を高めるために、“コンビニ経営”なるものを導入しているのだ。
「係長は工場長、工長は店長で、作業者は店員、在庫はすべて借金だと思えと。いかに早く短いリードタイムで売りにつなげるか、いかに少量の在庫で運営するかを各人が考えるしくみづくりをずっとやっているんです」(高岡)