いまこそ死のあるべき姿について考えるとき

(1)ニュースは流さない

昼間のご家族の明るい声や生活音は患者さんにとって安心感をもたらします。しかし、同じ生活音でもテレビやラジオのニュースはおすすめしません。ニュースは未来を生きていく人のためのものです。患者さんには、ご本人の好きな歌謡曲や音楽などの番組やCDがおすすめです。

(2)夜中に電気をつける

夜になると、暗さと静寂が不安を募らせるようです。夜になったら徘徊を始める人もいます。これは認知症などからくるものではなく、死に面した人が逝く瞬間がわからないために不安で起こす行動ともいえます。煌々と明かりがついていては落ち着かなくなりますので、たとえば隣の部屋の照明をつけたままにするとか、ご本人の好きな歌謡曲や音楽を小さな音でかけたままにするなどの工夫が必要です。

(3)家族が“引導”を渡してあげる

そして、最期のときがやってきたら、ご家族には「ここまでよく頑張ったね」「ありがとう」と患者さんに“引導”を渡していただきたいのです。それによって本人は心安らかに旅立つ準備ができます。このとき、「行かないで」と訴えたり、点滴を打つのは、ご家族の気持ちはわりますが自然の流れに反することになってしまいます。

地方へ行くと、いまだに一軒家に3世代が集まって、その人の最期を家族みんなで看取るといったいわゆる家族力があります。死にゆく前に家族が揃って声をかけてあげると、ご本人は本当に嬉しそうです。患者さんが家族に見せる笑顔にはかないません。残念ながら、私たち医療者が代われるものではありません。しかし、それこそが「健全な死」であり、これからの日本が、もっと増やしていかなければならない課題ではないでしょうか。日本はこれから超高齢化社会を迎えます。いまこそ死のあるべき姿について考えるときだと感じています。

船戸クリニック院長 船戸崇史
1959年岐阜県生まれ。愛知医科大学医学部卒業後、岐阜大学第一外科に入局。数々の病院で消化器腫瘍外科を専門に。しかし、「がんには自分のメスでは勝てない、ならばがん患者を在宅で看取る手伝いをしたい」と、1994年岐阜県養老町に船戸クリニックを開業。西洋医学を中心に東洋医学や補完代替医療も取り入れ、全人的な治療、診察を行っている。
(取材・構成=田中響子)
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