なぜ警察は動かないのか
今回の改正では、処罰対象を広げたことに加え、罰金額の上限引き上げや非親告罪化など、営業秘密侵害に対する抑止効果を狙った改正点が目立つ。ただ、その効果について小倉弁護士は懐疑的だ。
「これまで営業秘密が侵害されても、警察が捜査して立件までいくケースはそれほど多くありませんでした。法律を整備することも大切ですが、そもそも警察が積極的に動いてくれないと事態は改善されないでしょう」
警察が積極的に動かない背景には、営業秘密を盗まれた被害企業が告訴や民事訴訟に消極的だという事情がある。告訴や民事訴訟を起こすには、被害の実態について企業側が資料を集める必要があり、そのコストを担えずに泣き寝入りする中小企業が多いのだ。
「営業秘密侵害を防ぎたければ、法整備をする一方で、国が訴訟費用を無利子で貸すなど、何らかの支援策を打ち出したほうがいいでしょう。また、企業側も営業秘密の流出を予防するために、営業秘密を扱っている社員の処遇を改善すべきです。会社の処遇に不満な中高年社員が転職して、営業秘密を漏らすケースが現実には多いからです。給料を上げたり、定年を延長するといった対応が望まれます」
(図版作成=大橋昭一)