はらわたを振り絞って考えよ!

就職も、あえて大企業ではなく、商売の経験が積めそうな小さな不動産会社を選ぶ。与えられたのは、別荘地の飛び込みセールスだが、背水の陣で臨んだ安田氏は、入社数カ月でトップクラスの成績を上げるようになったというからすごい。歩合分を含めて、当時の大卒初任給をはるかに超える給料を手にしたものの、会社は第一次オイルショック(1973年)の煽りを受けて倒産。安田氏はしばらく、フリー雀荘を舞台に賭け麻雀で、糊口をしのぐことになる。

ギャンブラー生活は5年ほど続くが、安田氏はプロ雀士との息詰まるような真剣勝負のなかで、運気の流れや勝負の勘どころなどを見抜く力を身につけたという。それが、イオンやセブン&アイを向こうに回した破天荒な経営を生み出す。全国に展開するグループ店舗数は、現時点で300余りにのぼる。世の中がバブルに浮かれていた時代には、じっと動かず、それが弾けたら底値で土地や店舗を買うという出店戦略をしてきたのも見事というしかないだろう。

安田氏はよく「はらわたを振り絞って考えよ!」と口にする。いかにも叩き上げらしい、泥臭い表現だが、これは「はらわた力」ともいわれ、追いつめられながらもギリギリのところで耐え忍び、もがき苦しみながら這い上がろうとする力だ。世間でいわれる胆力とかガッツとは少し違う。ドンキ流経営の足跡を辿れば、まさに、はらわたという表現しかないことが理解できる。

2015年6月、安田氏はドンキホーテホールディングス代表取締役兼CEOを退任。現在はドン・キホーテグルーブ創業会長兼最高顧問として、まだほとんど手つかずの海外事業に専念する。そのため、シンガポールに専用オフィスと居を構えた。だから、舞台はさらに広がったことになる。その意味で、安田氏の一代記は、これからが第2章なのかもしれない。

【関連記事】
ドン・キホーテ創業経営者 安田隆夫「私が早期引退した理由」
「20年読み継がれる」入門書【経営・経済】
「経営トップの自伝・評伝」ダントツのお勧め
【2:ドン・キホーテ】「成果主義の職場」同期3倍差は当たり前
ニトリ会長が日経「私の履歴書」ウラ話を全告白!