当時、店頭のガム売り場で見るパッケージには、ミントのガムならミントの葉っぱがでかでかとある、キシリトールが売りであれば成分表示を目立たせる……お客さんにどうアピールするかを競い合う、大声の過剰なデザインが並んでいました。

また、キヨスクなどの売店でガムを縦に陳列したときに目立つよう、「LOTTE」などの社名は、一般的に商品名のロゴを正面に見て左端に入っています。しかし、社名はそもそも購入者にとって必要なのか。それに、無理して同じ場所に入れると、すべての種類のガムが同じ顔つきになってしまう。

そこで、初代ACUOのパッケージでは、社名のロゴを左端から右へ動かし、マットシルバー色の上に白色で置いて目立たないように仕上げました。角度によっては、光の加減で下地の色と同化して消える効果もあります。

このデザイン案を通すためのプレゼンテーションでは、パッケージを自分たちで印刷して作りました。そして、実際にACUOのサンプルをカートンに並べ、棚まで作り、競合の「Clorets」から「XYLITOL」まですべてのガムがコンビニで並ぶ状態を再現しました。

口臭対策としての効能感を表現するために、病院で処方される薬のようなデザインに仕立てています。「ACUO」という文字も、一般的な看板や標識に使用される、「Helvetica(ヘルベチカ)」というフォントを使用。ACUOの特徴は清涼感です。このことを伝えるために、過剰な装飾は必要ない。清涼感はパッケージに入った緑色のグラデーションと包装紙のマットシルバー色だけで十分表現できます。個性をかき消すことこそが、特徴を際立たせることにもつながる。そう考えたのです。

発売から9年、累計販売数は8億本以上!

写真は初代ACUO。2006年8月、20~30代の若年層向けのミントガムをコンセプトにして発売された。以来、5度にわたるデザインリニューアルを経て、現在までの累計販売数は8億本以上を突破。コンビニ各社のガム部門・売り上げで9カ月連続トップ。07年度グッドデザイン賞を受賞。同年、食品ヒット大賞優秀ヒット賞受賞。グリーンのほか、ブルー、ブラックに加えタブレットも展開する。

 
佐藤オオキ(デザインオフィスnendo代表)
1977年、カナダ生まれ。2000年早稲田大学理工学部建築学科首席卒業。02年nendo設立。現在、ミラノにもオフィスを構え、2拠点で活動。06年「世界が尊敬する日本人100人」、07年「世界が注目する日本の中小企業100社」に選ばれる。多数の代表作は、世界の主要な美術館に収蔵される。
(構成=矢倉比呂 撮影=佐藤新也)
【関連記事】
発売1年で2億食!「マルちゃん正麺」の秘密
エナジードリンク -なぜリポビタンDはレッドブルに勝てないか
ストーリー性でオンナ心をキャッチした「ブレンド米ギフト」
第三のビールはなぜ、“見捨てられた”のか