日本流「気配り」で勝負!

財政的なこともあろうが、大田区の町工場とジャマイカのコラボ成立は「コミュニケーション」があればこそだろう。ターゲットは平昌五輪のメダルで一致している。今後は選手の要望に耳を傾け、改良を重ねていくことになる。日本の持ち味は「気配りの技術力」。

「とにかく(選手からの)ヒアリングは長く、形にするのは短く、でいきたい」

それにしても、中小企業の心意気というのか、細貝さんの矜持というのか。決して、あきらめない。素朴な疑問。なぜ?

「ははは。子どもの頃から、あきらめるのが嫌いなんです。なんていうんでしょ、あきらめるという度合いにならないのです。ダメなら、次はどうしたら、僕らの思いは達成できるんだろうという風になるんです。立ち止まって、わあわあ言うわけにはいかないんです。経営と一緒です」

細貝さんの夢は「五輪2大会連続金メダル」である。根っこには、「このまちの連携がしたい」という思いがある。夢があるから、いつも元気なのだろう。確かに苦しい時もある。でも、この5年間の時間はどうでしたか? と問えば、49歳の男は少年のような無邪気な笑顔を浮かべた。

「いつも冷静を装ってますけど、エンジョイでしたね。チャレンジャーなので、毎日、楽しいですよ」

至福の時間が終わる。帰り際、細貝さんが記した『下町ボブスレー』(朝日新聞出版)をもらった。サインを頼めば、黒字で座右の銘を書いてくれた。

<人と人との出会いが自分を成長させる>

そうなのだ。人との出会いがあってこそ、夢が膨らんでいく。オリンピックで走れ、下町ボブスレー。町工場の夢を乗せて。

松瀬 学(まつせ・まなぶ)●ノンフィクションライター。1960年、長崎県生まれ。早稲田大学ではラグビー部に所属。83年、同大卒業後、共同通信社に入社。運動部記者として、プロ野球、大相撲、オリンピックなどの取材を担当。96年から4年間はニューヨーク勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。日本文藝家協会会員。著書に『汚れた金メダル』(文藝春秋)、『なぜ東京五輪招致は成功したのか?』(扶桑社新書)、『一流コーチのコトバ』(プレジデント社)、『新・スクラム』(東邦出版)など多数。2015年4月より、早稲田大学大学院修士課程に在学中。
【関連記事】
オリンピック選手に学ぶやり遂げる力
「五輪チャンピオンという肩書きを背負っていけるぐらい強い人になりたい」-羽生結弦
地方創生! なぜ日本を支える「中小企業」に期待するのか
「もう若くない」浅田真央の覚悟と挑戦
「下町ロケット」発見! 元東芝下請け町工場の小さくても生き残る道