「辞めたくても、辞めさせない」手法は……

今では家族を含めた「丸抱え」の会社は少なくなりつつある。だが、ジャニーズ事務所には家族主義的思想が色濃く残っている。もしくは、日本の芸能界には、というべきだろうか。メリー喜多川氏は『週刊文春』(2016年1月28日号)でこう述べている。

<私はうちのタレントは「うちの子」と呼びます! 病気をしたらちゃんと見舞いをするし、親御さんが亡くなったら全部面倒を見ます。マッチ(近藤真彦・51)だけじゃなくて、岡本健一(46・元男闘呼組)も、アッくん(佐藤アツヒロ・42・元光GENJI)も。それって当たり前のことでしょう。>

また「うちの子の責任は全部自分で取ります。それと同じように、私はうちの社員の責任も取るし、社員を統一するのも自分の責任だと思う」と語り、「私にとって娘より大事なのはタレント。でも、その次はやっぱり自分の家族。社員も大事にするけど、タレントで精一杯ですよ」とも発言している。

もちろん、社業に貢献するタレントの家族を含めて「丸抱え」で面倒を見ることは悪いことではない。家族主義的経営の良さかもしれない。

だが、今回の騒動では家族主義的経営の負の側面が露呈しているように思える。つまり、中根氏が指摘するように会社が疑似家族である以上、会社の権力は私生活上にまで及び、「従業員の考え方・思想・行動を規制してくる」存在であるということだ。

子供が親の言うとおりに行動すればかわいい存在だが、会社を辞めるという行動に出ると「これまで散々面倒を見てきたのに何事だ、裏切り行為だ」という思いに至る。

これまで「辞めたくても、辞めさせない」というブラック企業を取材してきたが、その原因の1つとして、従業員に対する手厚い処遇がなく、こきつかっているにもかかわらず、経営者の心性に伝統的家族概念が残っているのではないかと推測している。

もちろんジャニーズ事務所はブラック企業ではない。

しかし、辞めたいという社員をあらゆる手段を使い引き留めるという異常な行動はどこか似通っているように思う。

※草なぎのなぎは弓へんに前の旧字体の下に刀

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