【弘兼】桜井さんの考え方は常に合理的ですね。醸造所を訪ねたとき、4階建てのビルだったので驚きました。日本酒の酒蔵といえば、歴史ある木造の建屋に、古めかしい木樽がある、というイメージがあったからです。ところが、獺祭の醸造所はまさに「工場」。ビルの中は空調で気温や湿度が管理されていて、製造工程はかなり機械化されています。至るところにセンサーがあり、醸造途中の酒の温度がグラフで貼り出されていました。なにより驚いたのは、酒造りの職人である「杜氏(とうじ)」がいない。
【桜井】「杜氏」の廃止は、やむをえず行ったことなんです。獺祭が少しずつ売れるようになり、会社の将来のことを考える余裕ができました。当時の課題は杜氏の高齢化でした。杜氏はいわば季節労働者。就労環境が不安定なため、若い人は杜氏を志さなくなっています。
【弘兼】一般的に日本酒は冬に仕込みますから、杜氏は冬しか仕事がない。かつては夏に農業、冬に杜氏の仕事をしていたといいますね。
(1)4階建ての本蔵の左手で、新しい本蔵の建て替えが進む。12階建て(2015年4月に完成)。(2)精米後の米の「洗米」は手作業だ。(3)蒸した米は冷まされ、「麹造り」に進む。(4)麹造りは二昼夜半、手作業で行われる。(5)仕込み。醗酵室は年間を通じて5℃に設定されている。(6)発酵期間は最大50日間。(7)瓶詰め。酒は冷たいまま瓶詰めされ、65℃まで一度温め、打栓した後に20℃まで急冷する。この「冷温瓶詰方式」では酒の香りを逃がさずに済むという。