「佃製作所」は、従業員給与を最優先する

「本来は経営者というのは自身ができるコストカットをちゃんとやり、そのうえで従業員の方々に協力をいただくというのが中小企業や中小オーナー企業の常識です。

ところが、大企業のサラリーマン経営者は自らを何一つ犠牲にすることなく、会社を守るためにしかたがないとして社員に成果主義を押しつけて競わせたのです。成果主義は共同体を破壊する行為であり、経営者自ら組織破壊的な行動を始めているとしか思えません」

吉原氏は日本の年功的賃金は従業員の生活を保障し、安心して仕事に打ち込めるために必要という。そしてよい仕事をしたら、もっと楽しい仕事にチャレンジさせ、うまくいけば皆から賞賛を受ける、これが仕事のやりがいにつながるのだという。もちろん城南信用金庫も年功序列型の賃金体系だ。

大手企業が導入している成果主義や前述した職務給賃金は固定費の給与を流動費化でき、人件費を抑制できるという効果もある。吉原氏はこの仕組みは「経営者としては責任放棄だ」と指摘する。

「そんなことが簡単にできる状況は、もはや組織とは言えません。人を雇用するということは、一定期間安定した生活を保障しますというコミットメントです。

それをなしにしようということですから経営者としての役割放棄といえるでしょう。固定給を変動させてはいけないし、だから賞与というのがあるわけです。確実に出るとは限らないというのが賞与です。

賞与だけではなく、固定給まで調整できてこれはいいことだと言うのは、リーダーとしての役割放棄以外のなにものでもない。経営者は皆に安定した生活を保障するという重たい責任を負っており、それを放棄するというのは経営者として失格です。

もし、そんな賃金制度を従業員に強いるのであれば、まず経営者自身が給与をゼロにするなど身銭を切ってから従業員の給与に手をつけるべきです。

ちなみに当金庫のお客さんは皆、会社と従業員の生活を守るために、自分の給与をなくすか、あるいは自分の財産を処分するなど自分を犠牲にしてでも給与を払って従業員の生活を守りたいという人たちです。

そういう経営者だからこそ私たちも全力でお支えしますよというのが信用金庫と中小企業の関係です」

「佃製作所」と「帝国重工」の決定的な差

吉原氏の知る限り、大企業の賃金制度に変更しようとしている中小企業はないと言う。

「それは大企業だけの話であり、大企業は自己保身の経営者でもやっていける官僚主義の組織だというだけの話です。当金庫のお客さまを見ていても、経営内容がよいところほど従業員第一主義です」と言い切る。

人事制度に下支えされているから、力を発揮できる。

佃製作所の社長と従業員が一体となり、様々な困難にぶつかっても高いモチベーションを持って働くことができる理由がよくわかるような気がするのだ。

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