企業と社員双方で磨き上げるプロフェッショナリズム

では、何から変えられるでしょうか。例えば、自宅勤務や仕事の時間帯の柔軟性を高めることです。日本でも取り入れている企業はありますが、アメリカから見るとはるかに少ない。米大手の医療保険会社であるエトナに勤める3万5000人の社員のうち、1万4000人が完全な自宅勤務で、ほかに2000人近くが週に2、3日を自宅勤務としており、自宅勤務者の社員全体に占める割合は47%に達しています。会社に行かずにできる作業はありますし、ましてや往復1時間以上の通勤時間をかける必要はあるでしょうか?

これを解決するには、2つの問題があります。1つは会社が仕事の成果を時間ではない正当な方法で評価すること。そして、経営者側が社員を信用することです。経営者は「自宅で働くと本当に働いているかどうかわからない」という意識を捨てなくてはいけません。

ここまでは、企業のあり方、働き方について考えてきましたが、もちろん働く人の意識の変化も必須です。

英語には「プロフェッショナリズム」という言葉があります。日本語だと「プロ精神」と訳されることがありますが、具体的には「一人前に働く人がプライドを持って、自分がその専門に対して、最善の仕事をする」という意味を含みます。アメリカでは重視される考え方で、その精神があるからこそ、今置かれた環境で全力を尽くすのです。だから働く場所は問題ではなく、自宅勤務でもきちんと働くのです。

プロフェッショナリズムを身につけるために、社員が得意なことや今後歩みたいキャリア形成を自分でしっかり考え、もっと積極的に自分の夢を見つけて追求できる機会を企業が提供していくことが求められます。

そして、社員も将来に起こりうるキャリア変更のため、または現在の企業で自分の進路を設定するために、こんな自問をするといいでしょう。

「自分は何をすることが好きか?」
「自分は何に情熱を持てるか?」
「自分は仕事の何に意味と目的を見出すか?」
「自分は何が得意か?」

これらに自答して、それを自分の向かうキャリアに対する展望と共に考察し、積極的に自分の長所を他人と共有していくことが必要です。

自分の雇用適性保障は、自分で責任を持つしかありません。より多くのスキル、能力、資格、経験を持つことで、自分が望むキャリアでよりよい職に就くことができます。もし、自分がこれから会社に対してポジティブな貢献ができないのであれば、そこに居続ける理由はありません。「ドアがひとつ閉まると、もうひとつのドアが開く」と言います。これからは会社員でも自分のキャリアの途中で、いくつものドアを通過することが必須です。

日本は今、企業が経済の低迷から立ち直り、生産性と収益性を上げることに必死になっています。しかし、今こそ埋もれていた才能に満ちた素晴らしい人材を活用する機会でもあることに気づいてほしいと思います。

ロッシェル・カップ
エール大学卒、シカゴ大学にてMBA取得。大手金融機関の東京本社勤務を経て、日本の多国籍企業の海外進出や海外企業の日本拠点をサポート。職場における異文化コミュニケーションと人事管理を専門とする。
(大野和基=構成・撮影)
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