世界最高の超高精細印刷を実用化
水なし印刷導入に合わせて、VOCの少ない「植物油インキ」への切り替えも始めた。石油系溶剤の代わりに植物油が使われているので、廃棄処理しやすく、紙からインキを除去しやすいのでリサイクルにも適しており、紙の白色度が高くなる。さらに、植物油の透明度が高いので、発色がいいという。現在では、さらに進んでVOCゼロのNON-VOCインキを導入した。
また、紙でも環境対応にこだわった。森林保護の観点からFSC(森林管理協議会)が認証する用紙を積極的に使用している。
さらに、工場で使う電力も年間使用分30万キロワットのうち、3万キロワットについては二酸化炭素を排出しないグリーン電力でまかなっている。2009年からは、照明もLEDに変え、従来の電力量の半分以下に減らした。
ここまでの徹底ぶりだけでもすごいが、加えて印刷物の納品から廃棄・リサイクルまでの二酸化炭素排出量を計算して相殺する排出権を購入するカーボン・オフセットも行っている。
こうした設備の更新やインキ・用紙の切り替えなどを含めて1億円近くもかかったが、この決断が新しい日精ピーアールを創り出した。
水なし印刷への移行が、実は超高精細印刷を可能にする方策でもあった。印刷物は小さな網点(ドット)の集積で表現されているが、水あり印刷ではこの網点が水によるにじみでぼやけてしまうが、水なし印刷ではより正確に網点が再現されるために仕上がりが美しくなる。
網点を生成するには特殊なスクリーンを用いる。一般的には個々の網点の大きさを変化させることで濃淡を表すAMスクリーンを使うが、日精ピーアールでは水なし印刷導入と同時に、網点の密度で濃淡を表現するFMスクリーン方式に切り替えた。FMスクリーンの方が網点はより小さく、高精細で微妙な階調を表し、モアレも発生しにくい。
同社では網点の大きさが20ミクロンのFMスクリーンを標準としているが、現在、世界で最も緻密な色を再現できる10ミクロンの超高精細印刷の実用化にも成功している。
「常時、10ミクロンで印刷できる会社は、ほとんどないでしょう。当社の画像処理や印刷技術などのレベルが上がったからこそ可能になったのです」と、中村は誇らしげだ。
中村はこうした自社の取り組みと変化をまさに社名のように顧客や市場にPRした。中小企業にとっては、このPRが大事で、黙っていいことや努力をしているだけではなく、アピールが必要だ。
水なし印刷やNON-VOCインキ、FSC森林認証紙などを使った印刷物には特定のマーク・ロゴが使用できる。顧客がマークを印刷物に掲載することで社会貢献のPRになることから、新たな取引先も増えた。学校法人や食材関連など新規顧客が増えて、現在では2007年度に比べて新規のシェアが6割にまで増えた。
また、超高精細印刷が可能になったことで、博物館・美術館の図録、高品質なカレンダーやカタログなどの新規発注が増えた。
さらに、原画をスキャナーで読み取り、インクジェットプリンターで高精細に出力できる「ジクレー印刷機」も導入し、「ジクレー版画」という名称で複製絵画の製作請負も始めた。これはリトグラフやシルクスクリーンよりも安価に複製が可能なので、急速に普及している技術だ。