多くの日本人が軽症を含めて痔に悩まされているが、イボ痔の一種である内痔核の治療で、画期的な薬を開発したのが沖縄に本社を置くレキオファーマである。これまで切除手術しかなかったが、同社の開発した「ジオン」ならば注射だけで治療できる。奥キヌ子社長は、クラブの経営者として、全くの素人ながら苦労して「ジオン」を世に送り出した。
素人が作った沖縄初の創薬ベンチャー
医薬品開発は莫大な費用と時間のかかる仕事で、体力のある大手企業でなければ難しいと思われている。
だが、レキオファーマは沖縄初の創薬ベンチャーとして、医薬品の開発を主導、三菱ウェルファーマ(現・田辺三菱製薬)の協力を得て、製造承認を2004年に取得した。その薬が「ジオン」(内痔核硬化療法剤)である。
日本人の3人に1人が軽症を含めて痔の悩みを抱えていると言われるが、中でも痔核(イボ痔)が最も多い。最近の研究では痔核は誰にでもあり、肛門を閉鎖するときのクッションの役割を果たしていることがわかってきた。それがうっ血を起こし、大きくなって出血すると、いわゆる痔として認識されるわけだ。この痔核でも直腸側を内痔核、肛門側を外痔核という。
内痔核の悪化が進み、肛門から脱出するようになることを脱肛と呼ぶが、こうなると従来の治療法では切除手術しかなく、入院が1~2週間となって患者への負担も大きかった。
だが、ジオンが発売されたことで、治療による負担が大幅に軽減され、内痔核患者の福音となっている。ジオンを痔核の周辺および患部に注射するだけで、血液の流入が抑えられ、次第に痔核が硬く、小さくなる。治療後は痛みもなく、最短では日帰りも可能だ。治験ではジオンの有効率は94%に達しており、すでに12万人を超す患者に投与されている。
この画期的な治療薬を開発したのがレキオファーマ社長の奥キヌ子(68歳)である。
「ジオンというのは、痔の治療でオンリーワンの治療薬という意味です。痔は良性疾患であり、メスを入れない保存療法がベストなんです」と語る。
沖縄生まれ、沖縄育ちの奥は、沖縄への思いがことのほか強い。レキオファーマも沖縄に新しい産業を興すために設立した。社名も15~16世紀に交易で隆盛を極めた琉球をポルトガル人が「レキオ」と呼んだことに由来する。自立の精神と先進性、たくましさにあふれた琉球時代に戻りたいという奥の思いが込められている。
2005年に発売したジオンが軌道に乗ると、2008年からは沖縄の植物や海洋資源を作ったサプリメントの開発にも乗り出した。アレルギーの体質改善に役立つ「乳酸発酵パパイヤゼリー」、ウコンや深海鮫の肝油などを成分とした「レキオのウコン」を発売。
現在は、認知症の治療や予防に役立つ植物由来の成分の製品開発にも取り組んでいる。ウコンに含まれる「クルクミン」や、シダ植物の一種「トウゲシバ」に含まれる「ヒューペルジンA」が有力な素材候補となっている。