表現力と国語力
もっとも、読者の6割近くは読書が好き(問13)で、文章を書くのが苦にならない(問14)。「学生時代、国語の成績や点数がよかった」という人も半数近くに上ります(問15)。これらはコミュニケーションのための大切な下地になっています。私たちは、知識も経験もアイデアも、すべて言語化しなければ話して伝えることはできないからです。
語彙力や文章力など国語の力は、話し上手になるための必要条件です。国語力が高い人は、たとえいま「話し下手だ」と自覚していようと、話す練習をすれば改善できます。
問19「演劇、ダンス、歌などの発表会に出たことがある」、問20「居酒屋で、店員を呼んでも振り向いてもらえない」は、物理的な表現力を問うています。問19はNOと答えた人が圧倒的ですが、舞台経験がある人は伝わる体感をお持ちでしょう。
問20ではYES(振り向いてもらえない)と答えた人が2割強にとどまります。お酒が入れば声が出るという場合は、生来の表現力を抑圧しているのかもしれません。
聞き手がどう受け取るか
もう1つ、素晴らしい下地があります。問23「接待やデートでは、相手の好みを聞いてから店を選ぶ」では、全体の7割以上がYESと答えています。これは相手に配慮し、相手を喜ばせたいという「おもてなしの気持ち」の表れです。
日本人は相手の気持ちをおもんぱかり、相手に合わせる特質を持っています。けれども一歩踏み込んで、「相手に合わせて話す」ことは苦手です。相手の気持ちに合わせて言葉を選ぶ練習をしていないのです。
これからは話し方の練習を積んで、日本人独特の気配りや配慮という特質を、公の場でのスピーチにも活かせるといいと思います。
そもそも、問17「2020年五輪招致、東京チームのプレゼンは大げさだったと思う」に対しては、NOと答えた人が64%を超えています。安倍晋三首相以下、招致チームのみなさんは、日本国内ではほとんど見られないような大胆な身振り手振りを交えて、投票権を持つIOC委員に向けて猛アピールしました。
日本人の常識からすると、やりすぎかと思えるほどの派手なプレゼンです。しかしその結果、世界各国の委員たちの心を動かし、招致を勝ち取ることができたのです。
当然ですが、プレゼンでは話し手の都合ではなく、聞き手がどう受け取るかが重要です。そのことを理解している人が全体の3分の2もいるのです。あとは実践するだけです。
五輪招致という特別な舞台だからそうだというわけではありません。どんなに小さなスピーチでも、1人を相手にした営業トークでも構造は同じ。カギは「聞き手がどう受け取るか」。逆にいうと「話し手がどう話したいか」は関係ありません。
そのことに気づいたとき、読者の「話し下手」意識は大きく変わるのではないかと思っています。
大阪生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒。在学中にラジオDJデビュー。現在は、スピーチコンサルタントとして独立し、「話し方の学校」学長も務める。U.B.U.代表取締役。近著に『「ひらがな」で話す技術』(サンマーク出版)がある。