「自分たちのケータイ」だと思ってくれている

商品開発には莫大な投資を伴う。もちろん、本当にお客さんがほしいと思ってくれるのかについて、社内を説得するための材料が必要だ。しかし、「本当にやりたいと思ったら、資料を揃えるのは難しくない」と高橋は話す。

キッズケータイ開発の最終段階では、子供たちへのヒアリングも行った。数十におよぶパターンから、好きなデザインを選んでもらったのだ。選んだ理由はシンプル。「好きだから」。好きに理由はない。その声を反映して、現在は7種類の端末を揃える。7種という多さは、キャリアの常識では考えられないことらしい。

「女の子のほうがケータイを早く持ち始める」という調査結果に基づいて、最初は女児向け端末だけだったが、半年後の11月には、鮫やドラゴンがデザインされた男児向け商品も発売。

母親たちからは「子供が毎日持ち歩いてくれるようになった」という声が寄せられた。もの珍しさから初めは持ち歩くが、子供は1カ月もすれば飽きてしまうというのが悩みの種だった。子供たちにとって、他社のケータイは「持たされているもの」だったからである。一方、馴染みのあるデザインが施されたバンダイ製のものは「自分たちのケータイ」だと思ってくれている、という。

「バンダイでよく聞く言葉は、機を逃してはいけない、ということ。分析している時間があったら動こう、といつも言っています。ケータイも、どこと組むのが一番いいかをじっくり考えるよりも、目の前にウィルコムの話があって、これだけ条件が揃っているんだから、むしろ『やらない手はない』と思ったんです」

当然のように話す飛田は、「これからも、『本当にこれを、バンダイでやるつもりか!』と言われるような提案をしていきたい」と言う。それを許す風土が、今回のような一見「戦略的」とは対極の提携を生むのだろう。 (文中敬称略)