2006年12月末の携帯電話・PHS(以下、総称してケータイ)契約者数は、9980万超(電気通信事業者協会調べ)。子供にもその波は広がり、いまや小学生の4人に1人がケータイを持っているという調査結果もある。

06年3月、バンダイが業界4位(PHSで最大手)のウィルコムとのパートナーシップのもとに開発した「キッズケータイ papipo!」を発表。「子供が本当に持ちたいと思うケータイ」と銘打ち、端末には「たまごっち」やキティちゃんがあしらわれている。

大手キャリアが子供向け市場に着目し始め、その直前に「ジュニアケータイ」(KDDI)、「キッズケータイ」(ドコモ)を発表したばかりだった。そこに玩具メーカーとしては史上初、バンダイが参戦したという格好である。

玩具では数々のヒット商品を出しているバンダイも、ケータイではいわば素人。にもかかわらず、シェアで5%に満たないウィルコムと組んだのはやや強気に見える。なぜ業界トップのドコモやそれを追うKDDIではなかったのか。さらには、なぜ玩具メーカー自らがケータイのハードウエア開発に踏み切ったのか――。

同社ガールズトイ事業部の飛田尚美は、プロジェクト立ち上げの約半年前、04年秋を振り返る。

「とにかく早くやりたかった。その頃、子供たちのほしいものをアンケートで聞くと、必ず1位にケータイが入っていたんです。子供にもケータイの波が来ているから、早く子供たちに提供していかなくちゃ! というムードが社内にありました。そのうち、興味のある人たちが勝手に集まり始め、『もしバンダイがケータイをやるとしたら、どんなものをつくるか?』と盛り上がっていた。そこにちょうど、ウィルコムさんから話があったので、すぐに決めました」

05年7月、ウィルコムはPHSの通信部分を独立させた小型のモジュール「W-SIM(ウィルコムシム)」を開発。これを使えば無線技術を持たないメーカーでも通信端末開発が容易にできる、とリリースをしたのである。もともと玩具のケータイをつくっていたバンダイは、「こんな小さなチップを差し込むだけで、うちでもケータイがつくれちゃうんだな、という能天気な感じで」開発を始めた。

「“勢い”ですね。こういうチャレンジ商材はやってみなきゃわからないので、じゃあやってみようということになった」