最初と最後に相手の方とアイコンタクトを取るように説明されたものの、背の高い人だと相手の方を見下ろすような形となってしまい、尊大な印象を与えかねないようなことがある。そうした場合には、相手の方との距離を、半歩ないしは一歩ほど余分に開ければ、目線の角度が小さくなって、与える印象が変わってくる。さらに、深々と上体を倒す余裕も生まれてくるので、一流にぐっと近づく“裏技”として覚えておくといいだろう。

お礼の作法の基本的な部分で、すでに一流と三流では大きな違いがあることを理解いただけたかと思う。では、一流の人はさらにどんな工夫をしているのか。当たり前のように思われる「ありがとうございます。またお越しくださいませ」というお礼の仕方は、三流の店員が行う接客作法でしかないと一刀両断するのは、靴の大手量販店のABCマートでアルバイト個人売り上げ日本一になり、いまでは“接客マエストロ”としてコンサルティングや研修で引っ張りだこの成田直人さん。

「結局のところ、いくら『またお越しください』といっても、お客さまは『それを決めるのはこっちだよ』と心のなかで思っているわけです。私が店頭に出ていたときには、『ありがとうございます、もしも使い方がわからなかったり、不安に思うことがありましたら、いつでも私、成田までお電話をください』とお伝えしていました。いくら納得してお買い求めいただいたとしても、何かあったら困るなぁと心のなかで思われているものなのです。それを解消して差し上げることは、最高のお礼であるし、売った人間として大切なマナーだと考えています」

そのようにしてお見送りした顧客のなかに臨月を迎えた妊婦さんがいた。成田さんの親身な接客に感動して、次の来店時に生まれて半年のお子さまを連れてお越しになって、ファーストシューズを購入された。さらに、後日家族でピクニックに行った写真を持ってきて「この子の結婚披露宴で上映するスライドで、このピクニックの写真は必ず使いますね」と成田さんに声をかけてくれたそうだ。

成田さんがアルバイトで売り上げ日本一の実績をあげられたのも、この家族のように、成田さんの一流の接客マナーに感動して「次も靴を買うのなら絶対に成田さんから」というリピートの顧客が増えていったからにほかならない。「お客さまが先、利益は後」ともいうが、顧客に対するマナーが、自分の利として後から戻ってくる象徴的な例であろう。

一方、何も買わなかった顧客だからといって、お見送りもせずに店員同士「ペチャクチャ」とおしゃべりを楽しんでしまうのが三流の行動パターンだ。顧客をないがしろにする店として、みるみるうちに客足が遠のいていくはず。同じような間違いは決しておかしたくないものである。