ちょっとした一言や仕草が顧客に不快な思いを与えている。一流の営業マンと三流の行動を比較することで、数字に直結するマナーのポイントを探っていく。
月末や年度末が近付くと、営業マンの頭のなかから離れなくなってくるのが営業ノルマの数字だ。達成のメドがまったくついていないような状況だと、客先を走り回り、「私を助けると思って」と拝み倒してでも契約を取ろうとする。ほとんど“押し売り”に近く、そのこと自体、大変な営業マナー違反である。営業コンサルタントの和田裕美さんが、そんな営業マンの心理が遠因となった、お礼に関する三流の代表パターンを紹介してくれた。
「契約書にサインをして、『ありがとうございました』とお礼をいうのはいいのです。でも、椅子から腰を上げてお辞儀をするわけではなく、会釈程度に軽く頭を下げるだけ。それも、手元では契約書や資料をそそくさと片付け始めながら……。たぶん彼は営業の数字を獲得できたら、目の前の顧客のことなど、もうどうでもいいのでしょう。次のお客さま、売り上げの上積みが気になって仕方がないのです。そんな対応をされると、もうお付き合いもいいかなって思いますよね」
顧客は営業のノルマを達成するために存在するという捉え方をしているから、そうしたおざなりなお礼になってしまうのだろう。お礼と片付けという一度に2つ以上の動作を行うということは何かのついでを意味し、相手の方に対して礼を失することだということになるのだ。
では、一流のお礼はどういった所作なのか。マナーコンサルタントの西出ひろ子さんは、一流の作法を構成する要素として「心」「言葉」「行動」という3つの「こ」が必要不可欠であることを指摘したうえで、「相手の方に対する感謝の心があれば、『ありがとうございました』といいながら、自然と上体を倒すようになるものです」という。そして、感謝の気持ちを表す具体的なお辞儀の作法を次のように説明する。
(1)男性はかかとをつけて、つま先は握りこぶし1.5個分ほど開け、女性はかかともつま先もきちんとつけた立ち姿勢になり、相手の方の目を見る
(2)お礼の言葉をいう
(3)腰から上体を一直線にして、腰から前へ90度傾ける
(4)一呼吸置いたら、上体を元に戻す
(5)上体が元に戻ったら、再び相手の方の目を見る
お辞儀には、目だけを伏せる「目礼」、上体を前に15度傾ける「会釈」、上体を30度傾ける「敬礼(普通礼)」、上体を前に45~60度傾ける「最敬礼」などもあるが、感謝の気持ちを示す場合のお辞儀は上体を90度傾けることを、一流の営業マンや店員は必ず頭のなかに刻み込んでいるのだ。