ベストセラーとなった『里山資本主義』の取材班が、今度は里海をテーマに長期取材を行った。その成果が本書である。
しかし、藻谷浩介氏(『里山資本主義』では執筆者として参加していた)も解説で指摘しているように、本書は単なる『里山資本主義』の続編ではない。新たな発想に基づいて新たな可能性を模索した興味深い本だ。
本書によれば、「SATOUMI」というのは、すでに世界で使われている用語とのことで、決して里山の二番煎じとしてつくられた言葉ではない。山と海の決定的な違いは、その発展性にあるようだ。
里山資本主義の場合には、どちらかといえば、里山で慎ましやかに暮らす、身の丈に合った穏やかな暮らしが志向されていた。それに対して、里海の場合には、海という無限の可能性を秘めた資源を積極的に活用して、より明るい活力のある社会を築く方向性が語られている。そして、海は世界とつながっていることも強調されている。
本書の魅力は何といっても、話が具体的なところだろう。著者・井上恭介氏を中心としたNHK取材班が長期にわたって取材をして得た、実際の事例がふんだんに出てくる。舞台の中心となっているのは瀬戸内海だ。
もともとが、NHKの番組として映像化するために集められた事例だけあって、内容は具体的だし、視覚的にも興味深い。それが本書の主張に圧倒的な説得力を与えているように思われる。
海という、とてつもなく豊かな資源をいかにうまく活用していくかは、海洋国家である日本の大きな課題だろう。資源に乏しい日本などといわれることもあるが、これほど豊かな資源はない。
とはいえ、この資源を皆が勝手に使えば、どんどん劣化してしまう。だから、それを狭い意味で金銭的利益につなげるだけではなく、自然を守り育て、金銭を得る以上の豊かな生活を実現させる原動力としていくべきだという主張には大いに納得させられる。
経済学的にいえば、これは「共有地問題」とか「共有地の悲劇」として議論されているもので、共有地という共通の資源をいかに全体としてうまく使っていくかを考えることは、学術的にも理にかなった重要な課題だ。
経済学者としての評者から見れば、対比として語られる「マネー資本主義」といういい方は、ややステレオタイプ的で違和感がある。また、瀬戸内海の事例から資本論として一般化するには、まだまだ詰めるべき点がある気もする。
が、それらの細かい点を差し引いたとしても、本書にはとても魅力のある主張や提言があふれている。「地方創生」を考える読者に対しても、きっと有意義な情報をたくさん与えてくれるに違いない。